日本卓球が世界で勝つというのは…『日本の千人』より

『日本の千人』の発刊にあたって

日本卓球卓球・国際競争力向上委員会委員長 荻村伊智朗

巻頭言

この「日本の千人」情報共有化プロジェクトは、93年7月に開催された日本卓球協会加盟団体選手強化責任者会議で満場一致で採択され、10月から発足した。加盟団体に推薦を依頼したところ、多くの推薦があった。規定通り、国際競争力向上委員会からの推薦もおこなった。

「上善如水」という。

千年以上前に中国の名医が著した薬学書による「上薬」「中薬」「下薬」区分中の、上薬に相通じる概念であろう。

日本全国におられる熱心な指導者に情報が提供され、日本全体の指導力がジワジワと向上することは、上善のことと思われる。

このプロジェクトにより提供される印刷・VTR・録音テープ情報が、上薬のごとく、日本卓球協会の体質を向上させることを希っている。

26年ぶりに日本選手の強化を総括する立場が易しいとは思っていない。

この間、使命感に燃える人たちがチャレンジし続けたからこそ、今日まで、なんとかこの強さを保ってきたのである。

選手強化の過程で、服部氏ほか、自らの生命を縮めた友人も多い。

だからといって、焦ってもいけない。

「優勝請負人」システムは一過性の勝利を日本にもたらすかも知れない。

下薬、中薬をポンポン使えば、即効性のある勝利があるかもしれない。しかし、体質は弱まるだろう。

どうせ勝てるのなら、ずっと勝ち続けられるシステムの構築を目指さなければならない。

日本独自の強化は、日本の社会に立脚すれば成功し、立脚しなければ失敗する。

人まねの強化は、オリジナルに勝てない。

情報が勝敗を決定する、と言われるゆえんである。

日本にはメーカーの出している専門誌も多い。それも優れた情報を提供している。

姫路での中学生大会の折に、情報共有化プロジェクトについて現場のコーチのかたにアンケートしたところ、「すでに専門誌があるから、いらない。」と答えた人が1/5ほどおられた。この回答は記憶するに値する。

日本卓球協会の強化関係の予算のある部分をこのプロジェクトが占める。

しかし、強化予算が十分ではないため、一部受益者負担をお願いすることになった。

日本の卓球が勝ち始めて人気が出て、良い循環が起こることを祈っている。

国際競争力向上委員会でなければ発信できない情報を提供する。

さて、日本卓球が世界で勝つというのは、国際競争力の向上活動にたずさわるものの最終目的ではない。卓球が、人間の生み出したもろもろの文化活動の中で、あるべき評価と位置づけをうることが、もっと先にある目標である。

そのうえで、文化活動一般が、生産活動その他の価値創造活動と対等な評価と位置を獲得すること。そして、平和な地球社会をつくりだすことに貢献すること。そうした貢献に卓球がその一員として加わることである。

世界卓球のトップに日本が加わり続けられれば、そして情報発信の大事な基地になり続けられれば、そのぶん上記の貢献をするチャンスに恵まれることになるだろう。

日本の千人創刊号表紙

日本の千人

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