受けてたつな
ボムベイで、我々の先輩が4つの覇権を奪った時、彼等は”驚き”だと云ったそうだ。事實、彼等欧米の選手たちの代表リーチ・バーグマンは追いかけて来日、彼等の期待に答えてしまった。
佐藤さんの足の故障、藤井さんの悪条件は知られていなかった。
日本に取って1度の出場、1度の征覇は、10割の喜びであったけれども、彼等数回、あるいは10数回も世界選手権大会に出場し、辛酸をなめ蓋して来た選手たちに取っては、稀に起こりがちなonly a surpriseであったのだ。
しかし、ロンドン大会で敗れた時、同じく、敗れたことに納得はしたくなかったのだが、兎に角、三度び同じことを繰り返さないようにとの固い決心を彼らがした事は想像に余りある。
欧米の選手たちは、日本人以上に、”勝つ”ことに執着せねばならぬ”わけ”を持つからだ。
彼等同士は、お互いに一人一人が戦法を熟知し合っている。彼等は当面の共同の敵、日本への封策を案ずる会合を数回持った。
欧米では、彼を”信仰”する者まであるとさえ云われるバルナ以下、スペシャリストを以って任ずるドリナー、バーグマン、リーチ、フリフベルグベルグ、シド、アンドレアディス等の面々がパリ、南仏の海岸、ウィーンなどで顔を合わせる度にそれぞれ集まりを持ち、夜を徹して話し合ったさまざまの結論はそのままヨーロッパ中の選手たちのよく知るところとなった。
曰く、バックサイドの弱点を衝け、カットはより一層重く、各選手が決定球を持て、日本選手のよし!の掛け声に精神集中を乱されぬよう気力を整えよ、等々、彼等は日本を目標に日々練習している。
ルーマニアの選手たちはフォアハンドの決定球の完成を課されている。彼等はシーズンの始まる前に(ヨーロッパのシーズンは秋から)約一月の合宿をした。また、世界選手権前には一月を超える合宿をするとの事。
特に共産圏内の選手たちの練習量の充実は、最近スポンジに転向したステイベク、テレバ等が非常に難しいはずのバックハンドのスナップショットで、カットを易々と捌き、強打しているのを見ても感じるのである。
どうやって気を入れ、気を抜き、如何に勝ち、如何に負けるかを心得ている10数年選手たちに伍して、フロインドルフェル、ハラストシ、ツェラー、マチアン以下の若手選手たちが日に日に躍進している現状を見よ、又、日本人の報國の精神云々というが、ぢかに境界を接している彼等のナショナリズムや共通したイデオロギーに依る勝利への意欲が如何に熾烈であるかを知る時、我々日本の全選手は世界有数の指導人の教示を得つつ、1日でも早く1歩進んで、封策を立て、ユトレヒト、更に数年後に来るべきペン封シェークの存亡を賭しての激突に備えればならない。
武者ぶるいをおぼえるのは私ばかりではあるまい。
‐欧州旅行を終わって‐
1954.12.23
荻村伊智朗
協力:株式会社タマス(バタフライ/卓球レポート)