日本は再び世界一になる
全日本選手権大会で優勝した阿部、和田、海鉾・塩田、神田・山下、村上夫妻、その他の選手の方々おめでとうございます。それぞれの試合にドラマがあり、内容もよかった。ファンの反応も敏感で、日本選手権としてはこの十数年間にない観客の入りかただった。
日本の卓球は再び隆盛にむかっているというサインだと思う。
若い選手のなかには福田、梅田などの進歩がめだった。坂本もよかった。横綱をしめると横綱らしく強くなる、と相撲の社会ではいわれているが、卓球でもそうだ。阿部はこれからもう少し強くなるだろう。
さて日本がノビサド大会(81年世界選手権)や83年の東京大会で団体戦に勝つとしたら、日本がもっている卓球界のバイタリティがムラなくいかされたときだろう。そういう観点からみると、今度の全日本は、優勝者の華やかで力づよい話題のかげにかくれながらも大きな一つの波が加わってきた兆しのみえた大会といえよう。
第二次大戦後、日本の競技スポーツを支えたのは学校スポーツだった。これを第一の波と考えてみよう。高度経済成長期から、企業が競技スポーツの支えに参加した。これを第二の波と呼ぼう。いま現在、第一の波も第二の波も健在で、日本の競技卓球はしっかりした二本の足で立っている。
打倒中国は、日本の競技卓球に関係している人たちの念願である。中国に勝つということは世界に勝つ、ということだからして、別に中国にうらみがあるわけではない。いま私は、日本の社会の特性を考えてみて、日本はどこの国ともちがうやりかたで王座を奪回できるのではないかと考えている。
諸君もご存知のように、欧州にはクラブスポーツがあって、学校スポーツと企業スポーツはない。中国には国家スポーツのワクぐみがある。アメリカには学校スポーツとクラブスポーツがある。日本が学校スポーツと企業スポーツの健在に加えて、第三の波であるコミュニティスポーツ(クラブスポーツ)のなかからハイレベルの競技者が出てきて競争に加われば、世界に例を見ない自由競争の原理のうえに立ったせっさたくまが出現するだろう。
ちょうどこれは、日本の企業が自由競争の原理に立脚して世界をリードするようなものであろう。そういう観点からみると、混合優勝の村上夫妻組、男子複2位の織部・井上組、女子カデット優勝の厚見、男子ジュニアで健闘した渋谷、などが第三の波から出てきたことは、こうした傾向が強まることを予想させる。
もちろん第三の波が第一、第二の波ほどに力強くなるにはまだ時間がかかろうが、三つの波がそろったときに、どこにも負けない競争が出現するだろう。
1981年1月
荻村伊智朗
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