【編集部注】
『卓球レポート』1965年9月号に掲載された本稿は、日本卓球協会が主催した第1回全国コーチ会議の模様を伝えた記事である。全国から約100名の選手・指導者が集まり、それぞれの経験をもとに、技術、選手強化、指導方法などについて意見が交わされた。荻村伊智朗は世界選手権代表監督として参加し、選手強化や卓球に取り組む目的について語るとともに、中国で学んだ指導方針を紹介している。基本技術を戦術の基礎として徹底することや、技術向上のための身体訓練、長期的な選手強化など、当時の中国卓球から得た知見を伝えている。また、初心者の指導について「ショートから入るのが本当じゃないか」とする荻村自身の考えも紹介されている。当時の日本卓球界が指導者の経験を共有し、全国的な指導理論の構築を模索していた様子と、その中で荻村が示した指導に対する考え方を知ることのできる資料である。
貴重な体験報告でいっぱい ―第1回全国コーチ会議から―
★豪華な顔ぶれがズラリ
7月10、11日。東京・渋谷の岸体育館地下3階の会議室に、全国から100名近い卓球関係者が集まった。
・青森からは元世界チャンピオンの佐藤博治氏
宮城からは「魔球カット」で鳴らした中田鉄治氏
大阪からはダブルスの名手西山恵之助氏や世界選手権で活躍した江口芳雄氏、伊藤和子さんら
山口からは11年連続ランキングプレーヤーの記録保持者田中良子さん、ロゼアヌを破った田坂清子さん
東京からは前世界チャンピオン松崎キミ代さんやことしの世界選手権出場者たち
……OB・現役の一流選手がズラリ。
・それに、大学や高校、中学の指導者の方々。その中には、高校日本一の東山高(男子)今井先生、四天王寺学園(女子)田中監督の顔も見える。
・卓球界草分けのひとりである井坂信太郎氏の顔も見えれば、全国的に名は知られていないが、地方で黙々と優秀選手を育てている各県の指導者たちも大勢いる。
――これだけ豪華な顔ぶれが全国から集まったことは日本卓球60年の歴史の中で、一度もなかったことです。それだけに、この会議を開いたことは、おそまきながら大変結構なことでしたし、出席者の方々も、みんな多少は緊張していたようでした。
長谷川専務理事が、日本卓球協会を代表して開会の挨拶。
「今後は一貫した指導方針で、選手強化をしなくてはいけない。そのワンステップとして、全国コーチ会議を開いたところ、多数のご出席を得まして、ありがとうございました。みなさんの貴重な経験を発表し合っていただいて、今後日本が世界制覇をするには、どうあるべきかの方向づけができたら、大変ありがたい」
2日間の会議の主な項目は、別表のとおり。
発表内容は、いずれも貴重なものでしたが、紙面のつごうで、ほんの一部分だけを紹介させていただきます。
なお、テープレコーダーで録音をとったわけではありませんので、発表内容と多少の表現のちがいがあるかも知れませんが、その点はお許しを願います。
★1つの技術がモノになるには長期間かかる
「合宿でバックハンドも随分練習して行ったのですが、世界選手権で、いざという時に、あまり使えなかった。一つの技術が実戦で使えるようになるまでには、長い期間の練習が必要だと、つくづく思った」
――木村興治選手
木村君は4カ月間の合宿で、毎日のようにバックハンド練習をやっていましたが、それでも、中国との団体決勝の大事な場面では、使えなかったようです。
高橋浩選手は、フォアから出す特殊な横回転サーブをマスターするのに、半年以上もかかったそうです。ある選手はバックハンド攻撃を実戦で使えるまでに1年かかったといいます。
1ヵ月や2ヵ月でモノにならないからといって、「自分は素質がないのだろうか」などと、あきらめたり悲観したりしないで、くり返しくり返し練習することです。
★攻撃選手も防ぎょが必要
「中国の速攻選手と対戦した場合、先制攻撃をなるべく貫くようにやらなければならないと思いますが、相手のサーブもいいですし、全部先制攻撃をすることはむずかしい。それで、攻撃された場合も、ある程度対抗できることが絶対必要だと思います。
私は個人戦で狄薔華選手(中国)と当たったんです。3-1で4セット目19本ぐらいで勝ったんですけど、最後に相手にサーブがまわって、3球目をねらわれたんです。バックへ打たれたボールをカットで2本ばかり返したら、相手があせってミスして助かりました。やはり、攻撃された場合にも、ある程度対抗できる技術を身につけなければならないと思いました」
――深津尚子選手
日本選手同士の試合でも、お互いにさきに攻めようとしているわけ(攻撃対攻撃)ですから、自分の方ばかりが常に先手をとれるとは限りません。相手にさきに攻められた場合に自分はどうするか? この点を、ひとりひとりがよく考えてみましょう。
たとえば、高校生の試合などを見ますと、自分からさきにループドライブをかけるのは割合上手ですが、相手にループドライブをかけられたときの処理がへたな攻撃選手が多いようです。攻める練習を一生けんめいやる割りに、攻められたときの防ぎょの練習が少なすぎるということはないか、もう一度反省してみましょう。
全国コーチ会議のプログラム1.世界選手権の映画(解説・荻村伊智朗氏) |
★最後の勝負は基本技術の差
荻村伊智朗氏は、監督の立場から、どのような考え方で、どのような選手強化をやって、世界選手権に出場したかを話しました。また、なんのために卓球をやるか、というスポーツ観についても話しました。そのあとで、中国の指導方針や指導内容について語りました。その一部を紹介しましょう。
「中国のヘッドコーチであるフー・チーファン氏の話では、卓球の勝負で勝つためには、いろいろな要素があるが、最後の勝負は基本技術の差できまる。基本技術(サーブ、レシーブ、バックハンド、フォアハンド、ショート……など)を徹底的に行なうこと。これが戦術の基礎である、と申していました。
基本練習のほかに、全面練習や実戦練習も行なうが、なんといっても、一番重要なのは基本練習だということで、私たちが北京で見学した少年体育訓練所でも、基本練習だけをやらせて、ゲームはやらせていなかった」
――荻村伊智朗監督
先日、大学のある試合を見たのですが、目のさめるようなすばらしいボールが入るかと思うと、つまらない凡ミスをして苦しんでいる選手が多いのに、驚きました。「このボールなら、確実に入る」という安定性が、まるでないのです。基本練習が不足しているためでしょう。
一流選手も、大学、中高校選手も、基本をみっちり練習しましょう。
★荘則棟の体力に驚く
「フー氏の話では、中国では身体訓練を重要視しているとのことです。一部のプレーヤーは、身体訓練は必要ではない、という考えをもっていた。しかし、押しつけでやらせるのではなく、身体訓練がなぜ重要であるかを強調して、自発的なものを求めてやったということです。
身体の訓練は技術を高めるためのものだ。技術の向上は技術だけを練習するよりも、身体訓練を平行してやることによって早くなるということを非常に強調している。そして、若い選手(編集部注:荘則棟や李富栄ら)がそれを実現したので、みんな身体訓練を活発に行なうようになってきた、と申しておりました。
体力トレーニングとしては、体操、ウェイト・トレーニング、ランニング(長距離は3,000~1万メートルぐらい、短距離は30~60メートルぐらい)、鉄棒、平行棒、マット運動、重量あげ、エキスパンダー、亜鈴、バスケット、バレー、フットボール……など。なわとびは、いろいろ工夫をこらしてやっている。
①一番速いスピードでやって15秒間にどのくらい飛べるか、②中速度で1分間ノーミスで飛ぶ、③3分間ノーミスでスピードを落とさずにやる、というように。
重量あげは、卓球の場合には、重いものは必要ではないので、軽いものでスピードをつけてやる。こういう点では、私などと同意見です。また、フットワークや素振りなどに亜鈴を使ったり、ウェイトを使ったりしている。専門家の知識も動員して、しっかりと研究しているという感じを受けた。
技術訓練、試合などの計画は、最短で1年、基本的な単位としては2年間で選手を強化していくんだ、という話でした」
――荻村伊智朗監督
体力トレーニングのある専門家が、世界チャンピオン荘則棟や李富栄らの体をみて、「あんなすばらしい体は卓球だけをやっていたのでは10年かかってもできない」と語っていましたが、荻村氏が述べたようなトレーニングを積み重ねて、あのようなすばらしい体ができ上がったわけでしょう。
高橋浩選手が、荘則棟と自分の体力のちがいについてこんなことを語ったことがあります。
「とにかく、世界選手権の大会期間中(4月15~25日)、ヒマさえあれば練習している荘則棟の体力には驚きました。ぼくの場合は、シングルス、ダブルス、ミックスと接戦の連続だったため、大会の後半はかなり疲れ、できるだけ体力を消耗しないように努め、あまり練習しなかった」
技術がすぐれていても、体力や精神力がそれに伴わなければ、すぐれた選手にはなれません。現在の自分の体力を、少しずつ高めていくように努力しましょう。
★中学1年生はまずショートから
「私はペンであろうがシェークであろうが、1年生にはまず徹底的にショートをやらせる。そして、6月になって、ショートもある程度できるようになったら、個人面接をやり、“きみは、どういうタイプの選手になりたいか”を聞き、相談しながら、ドライブ型やカット型にわける。6月以後は、各人の特長をのばすやり方をするわけです。
なお、気質の面から生徒のタイプをわけますと、ねばり型、積極型、興奮型、引っこみ思案型、の4つありますが、興奮型と引っこみ思案型は、私の経験では、あまり成功しないようです」
――関平先生
1年生は全員ショートからやらせるということですが、これについて、荻村伊智朗氏も“初心者はショートから入るべきだと思う”と、次のように述べています。
「卓球をなにからやるか。初心者になにから教えるか。コーチによって違うが、自分はショートから入るのが本当じゃないかと思う。卓球のスウィングの中で一番大切なのは、インパクト(編集部注:打球の瞬間)だ。インパクトがなければ空振りがあるだけだ。これは何百何万人の違った人間が考えても、正しいことだ。万人が卓球のスウィングについて考える共通の土台はこれだ。何がなくても、インパクトだけはあるべきだ、となると、最も単純な形のインパクトによる打球の種類はなにかというと、ショートだ」
(関東学連合宿報告書から)
★全国中学大会の実現を
「私は卓球をはじめて、20年になります。その間に、私生活も相当犠牲にしたつもりです。卓球きちがい、とかピンキチといわれます。それほどまでにやったつもりでも、まだこれぐらいにしかならない。これでは、ちょっとみじめではないかという気がする。全国には、私よりもっともっとすぐれた中学の指導者がたくさんいると思う。しかし、横の連絡がない。全然、ほかの学校、ほかの県の様子がわかりません。なんとか、他校との交流ができたらよいと思う。
それから、中学校は県で優勝すると、それで終りです。私の学校は県大会、市大会を合せて65連勝していますが、65連勝しているんだという顔をして平気でいられる。これが、全国大会があると、選手を育てることについて、夢ができると思う。
指導というのは地味で、継続的な縁の下の力持ち的なものです。それが、優秀な選手が出れば、指導者というものは満足するわけなんですが、現状では満足するのに夢がないと思うんです。一生けんめいに選手を育てても、それが果して高校へ行って伸ばしてくれるのか、わからない。
これでは、あまりにもひどすぎると思うんです。協会の方々にぜひお願いしたいことは、中学校の卓球指導をやっている先生方に、たくさんの夢を与えていただきたいということです。報われることなく、もくもくと全国で努力しておられるであろう先生方にかわって、お願い申上げます」
――関平先生
聞く者の胸にジーンとせまる感銘深い話でした。2日目の分科会でも、ぜひ全国中学大会が実現するように協会は文部省その他へ積極的に働きかけてほしい、という強い要望が「中学部会」から出ました。
文部次官通達というものにしばられて、現在は中学生の全国大会を開けないことになっておりますが、なんとか1日も早く全国中学大会が実現してほしいものです。1万を越す全国中学校卓球部指導者のためにも、中学選手のためにも、そして高校、大学のレベルを高めるためにも。
★1年はほめ、2年ははげまし、3年はしかる
「1年生はほめ、2年生ははげまし、3年生はしかる――これが私のモットーです。1年生には、“うまくなったな”とほめてやると、喜こんで一生けんめいやる。2年生になると、卓球に疑問をもつようになり、かべにぶつかる。そこで、はげましてやる。3年生になると、お互いの気心を知っているわけで、先生にいわれなくても、ちゃんとやれたり、あまりほめません。
練習はgive and takeの方針でやっている。両方が利益を受ける練習、ということです。たとえば、2年生のカットマンが3年生とやるときは、切るカットを練習する。(3年生の方は、切れたカットを打つ練習になる)1年生とやるときは、切らないカットをする(カット打ちのへたな1年生でも、切れないカットだと、ある程度打てるので、ラリーがつづき、両方の練習になる)」
――大島俊之助先生
★経験だけで指導するな
「多くの指導者は卓球競技者としての経験をもっている。そして、この経験が指導の基盤になっている。経験は貴重であり、経験から割り出された指導は説得力をもつ。しかし経験は万能ではない。経験一辺倒は危険である。
指導者はこの経験主義のもつ危険性をよく認識して、克服する努力を怠らぬことが大切である。経験主義一辺倒におちぬためには、指導者自身が絶えず研究し、反省し理論化していくことが必要である」
――徳島県卓協理事長・竹原茂雄氏
一流選手同士の試合は、クセ(個性)とクセとの勝負だ、という言葉があります。事実、フォアの打ち方ひとつをとってみても、木村、小中、高橋、野平選手の打ち方は、みんなちがいます。指導者は選手の個性をのばしてやることが大切です。ところが、指導者の中には、選手の個性を無視して、自分の気にいったあるフォームを選手に押しつける人がいます。
ある県にKという選手がいました。独得のフォームでクセ球の持ち主のため、やりにくい選手だ、とおそれられたものです。のちに、全日本ランクにも入りました。
ある時、東京から有名な方がコーチに来て、ちょっとK君のフォームを見ると、すぐ直そうとしました。ここでもしK君がこのインスタント・コーチの言うとおりにフォームをかえていたら、得意のクセ球を失い、平凡な選手で終ったかも知れません。K君は、がんとして自分のフォームを守りつづけて、成功しました。
ちょっとフォームを見ただけで、すぐ直したがるコーチ――こういう例は、全国にたくさんあるのじゃないでしょうか。指導者が経験一辺倒になることを防ぐためにも、このようなコーチ会議をたびたび開いて、理論を勉強し合うことは、大変有意義なことだと思います。
★一貫した指導方針を
「中学は中学の県大会で勝つための卓球をやる。高校はインターハイで勝つための卓球をやる。だが、それが将来、中国に勝つための卓球につながっているかというと必ずしもそうとはいえない。それをどういう形でつなげていくか。私は、日本卓球協会から指導方針として大きなものが出て、それが地方支部へ浸透して行く形をとらなければ、いけないんじゃないかと思う」
――竹原茂雄氏
いま勝つための卓球が将来につながらない例として、私の場合を紹介しましょう。私はシェークのカットマン。国内でいい成績をあげようと思えば、強敵の9割以上がロングマンでした。したがって、ロングマンに勝つための練習ばかりをやりました。仮りに10練習するとすれば、10のうち8~9を対ロングの練習をやりました。このため、打ってくる相手には割合強く、国内ではなんとか全日本ランクに入ることができました。
ところが、9年前の世界選手権東京大会のこと。私も日本代表のひとりに選ばれたのですが、なにしろ過去何年間も、10のうち8か9を対ロングの練習をやって、国内でいい成績をあげるための卓球をやってきた私です。
日本代表になったからといって、急に世界選手権で勝つための卓球ができるわけがありません。2回戦で、ツッツキの試合で負けてしまいました。それが、ほかの日本代表のロングマンなら、誰でも勝てそうな選手にやられてしまったのです。
世界選手権でツッツキの試合となると、私としては10のうち1ぐらいしか練習していなかった対カットの試合をすることになるわけですから、ロングマン相手のときとちがって、極端に貧弱な内容の試合しかできなかったのです。
国内でいま勝つための卓球が、将来(世界選手権)につながらなかった典型的な例でしょう。もっと、対ロングの練習だけでなく、対カットの練習もふだんからやっておくべきだったのです。たとえば、対ロングの練習を6~7、対カットの練習を3~4の割合で。
私にかぎらず、戦後の日本のカットマンが、国内ではある程度の成績をおさめながら、国際試合で極端に弱かった主な原因は、この辺にあったと思われます。
私と同じ失敗を、若い選手諸君にくり返してほしくないと思います。その意味で、指導方針というものが、協会から全国へ配付されることは、大変結構なことですし、ぜひ近い将来にそれを実現してほしいと願わずにいられません。
2日目の分科会でも、協会で指導方針をまとめて、全国へ配付してほしい、という要望が出た。そうすれば、将来につながった選手づくりを中学時代からできるし、卓球指導の経験の浅い卓球部顧問の先生でも、指導の効果をあげやすい、ということでした。
指導書は一流選手用、中クラス用、初心用の3段階ぐらいにわけて作ってほしい、できれば8ミリに基本練習のやり方をおさめて、映画と指導書を一緒に、地方へ配付していただけると、大変ありがたい、という意見が多かった。
★分科会の話題
分科会では、このほか全国中学大会の実現を/高校3年生は全日本硬式選手権の一般の部へ入れたらどうか/社会人の試合をもっと多く/軟式を廃止したらどうか/……など、たくさんの話題が出ましたが、紙面のつごうで説明は省略します。
× × ×
2日間の会議では、“強化対策本部を作ることには大賛成”(全会一致)という意見のほかは、これといった結論は出ませんでした。が、こうした会議が毎年何回かずつ積み重ねられていくことによって、やがてはその中から、りっぱな指導理論も生まれるでしょうし、お互いの経験交流によって、“よりすぐれた指導者”が多く育つことになるでしょう。指導者が育てば、選手も育ちます。
(藤井)
(このコーチ会議は、日本卓球協会が主催したものです)
※編集部注:本文中の一部表現は、資料の歴史性を尊重し、原文のまま掲載しています。
















