『技術革新と“常勝日本”の回復』1982年夏号 卓球ジャーナル「発行人から」より‐荻村伊智朗

技術革新と“常勝日本”の回復

卓球用具や卓球ゲームの設計思想において世界をリードしてきた日本が、70年代以後、中国に完全に追い抜かれた。粒長ラバー、アンチのソフト化、シェーク異質、投げ上げサービス……等々。しかし中国のマネ、中国の後追い、でない発想でこれからの日本の強化を考えていこう

 

IMB事件がおこって、日本が世界の一流にのし上がったといわれるコンピュータ技術の分野でも、実は“後追い”“マネ”などが努力の中心だったところも多いのが明らかになった。もちろんIBM事件の背景にはいろいろなものがあり、簡単に日本はダメだということはできないのだが…。

さて、卓球では、日本は1950年代から常に卓球用具や卓球ゲームの設計思想において世界をリードしてきた。いや、していた、といった方が正確かもしれない。というのは、1970年代に入ってから、中国が日本をこの分野でも完全に追い抜いたからだ。

①粒長ラバー

②アンチのソフト化

③シェーク異質持ち替えのカット主戦ゲーム

④シェーク異質持ち替えからの前陣攻守型のゲーム

⑤ペンのコンビラケットによるカット+ロング戦術

⑥ペンのコンビラケットによる前陣攻守戦術

⑦投げ上げサービス

⑧ぶっつけサービス

⑨ボディーハイドサービス

⑩粘着性ラバー

など、用具と技術のコンビネーションによる技術革新は中国がリードし、日本が後追いコピーをするようになっている。

中国のリーダーシップは多球練習のような練習法にまで及んでいる。体力トレーニングも完全に日本に水をあけ、日本では一部の選手以外は専門的に鍛えた体をしていない。

こんな中でのノビサドの無冠は日本卓球界の長期低迷を象徴して起こった。

 

しかし日本人が黙っているはずがない。全体主義国家ではないので、今やテンデンバラバラの感はあるが、それぞれの場で立ち上がっている。

日本卓球協会は強化費を55年度に比べ56年度は2倍、57年度は3倍にした。一流選手の遠征や合宿だけではなく、高校生や中学生の夏季強化行事にも今年は昨年の2倍以上を使う。スポーツ医科学の研究費も大幅増だ。メーカーも中国やヨーロッパの用具以上のものを開発する意気ごみを見せている。

 

ここで考えておきたいのは、なんとかして後追いでない発想で、これからの強化を考えていかなければならないということだ。

東京の世界選手権が終わっても、結果の如何(いかん)にかかわらず、2年後に世界選手権が来る。また88年からはオリンピックもある。88年の世界選手権に日本も立候補している。

中国を上回る仕組み(システム)を考え、実行しなければ、いつまでやっても毎2年ごとの短期決戦の繰り返しになろう。

来年からは小学生クラスの全国大会も始まる。日本の社会の力は中国を上回るものをたくさん持っている。人口は10分の1だが、経済力、生産性、知的水準、など、数々の上回るものを持っている。

日中といっても実際は3人対3人の勝負だ、という声もきくし、これはこれで一面の真理だ。だが、数千人数万人の勝負になっても上回る仕組みをつくり上げてこそ、はじめて、“常勝日本”を回復することができる。

1982年 夏

荻村伊智朗

1982夏

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