『ノビサドからの半年』1982年春号 卓球ジャーナル「発行人から」より‐荻村伊智朗

ノビサドからの半年

ノビサドの世界選手権(81年4月)のあと、中国もヨーロッパも一息入れた。日本は矢つぎばやの強化策を打ち、ベテランと新人の争いが激しくなってきている。大勢の人が「世界」に目を向けはじめたのは喜ばしい。日本は中国を上回る潜在能力をもっているように思う。

 

ノビサド以後、中国も一息入れた。もちろん一部の選手、たとえば郭躍華などはその後息つくひまもなく各国へ遠征し、10月に来日したときなどすっかり疲れていた。トレーニング不足で、体力が落ちているようにも感じられた。かなり節制している様子がうかがたが、長期遠征のデメリットがはっきりとあらわれていた。

ヨーロッパも一息入れた。というより、恒例のシーズンオフをとった。世界選手権の後は特に長めにとる。ベテラン勢は8月になって始動となる。マイペースをしっているだけに、うまいスタートを切っている人も多い。9月から10月にかけてはベンクソン、11月から12月にかけてはシュルベクが好調だった。ヨーロッパ選手権の4月に絶好調となるのは誰か。

日本はノビサド後の半年間、矢つぎばやの強化策を打った。結果は10月の日中大会での男子の善戦となって一応現れた。現世界チャンピオンの中国選手が日本で11戦中6敗もするなんて、今までもなかったし、これからもあるまい。相手の調子が悪いにしても勝った日本選手も褒めなければなるまい。立派なものだ。

12月の末に行われた中国選抜では再び若手が上位を独占した。

日本でも日本選手権は波乱気味だったし、ベテランと新人との争いがだんだん激しくなってきている。小野、高島、阿部、前原、内田らは健在だし、かえってノビサド後、進境をみせてさえいる。これに新顔が割りこむにはよほどの力と努力が必要だ。しかし、相当大勢のプレイヤーが、今年は、と密かに期している様子がよくわかる。指導者の関心も盛りあがってきているように見える。

大学などは「もう3回もOBの間の募金をやった」という声を聞く。なにがなんでも東京大会ではノビサド以上の内容の試合をしなければ、というのが卓球人共通の願いだが、実業団、大学は申すに及ばず、高校・中学のレベルまでが「世界」に目を向けはじめたのは、誠によろこばしい。

この3月には数十名のカデットクラスの選手とコーチたちが中国での合宿に参加する。実業団や学生のチームの海外遠征熱もすごい。明治大学、三井銀行、協和発酵、日本大学、学生連盟などが新年から春までに遠征を計画している。来年に焦点をおいて、今のうちに外国勢の手の内を見ておこう、という深い読みだろう。

日本は社会主義国とは違う。みんながまとまらなくて社会主義国にくらべて一見効率が悪いようだが、激しい自由競争によって経済も科学技術も国際競争に打ち克ってきた。全国の末端にいたるまで、高度の教育水準と経済力があるのが特徴だ。

もちろん日本の人はそれほど自覚はしていない。むしろ予算がない、金がないと思っている。しかし、中国を含むあらゆる外国と比べると、何十倍ものすごい力がある。この力がみんな立ち上って高いレベルで競争をはじめたら、諸外国はとても立ちうちできない。日本の土俵だ。西側欧米諸国の社会制度と日本と違う。日本には真似のできない雇用制度だ。また、日本のようにはやれない。スウェーデンがいくら富んでいるといっても、人口800万人、卓球人口2万人、日本が総力をあげて競争したら叶わない。

フランスやドイツやイギリスの卓球人口は多いが、一部の選手以外は卓球に青春を集中しない。日本は工夫さえすれば10年、20年と引きつづいて中国や欧米に対抗し凌駕できる。しかも中国や欧米がまねのできない日本独自の仕組みを作り上げられると思う。

たとえば戦型別大会ひとつをとっても、欧米にはとてもまねができない。ペンの攻撃選手を育てるには5年はかかる。日本流のロングの概念が育つには中国にも少し時間が必要だろう。中国は数百人のレベルまでならば日本よりも良い環境を作れる。数千人のレベルの競争になったらどうだろうか。数万人のレベルの競争になったら日本が立ち上ったら、日本の力が上廻る潜在力をもっているように私は思う。

1982年 春

荻村伊智朗

1982春

 

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