東京新聞1991年4月24日「いつか全世界 笑顔の大会を」荻村伊智朗

東京新聞1991年4月24日

いつか全世界 笑顔の大会を

英国のアン王女に「卓球は100メートル競走をしながら、ブリッジをするようなスポーツです」と申し上げたことがある。

ソウル・オリンピックで、卓球会場に二度も足を運ばれたので、わが党の士と思ったのだ。「そうですね。でも、私の卓球は、走りながらのポーカーね。なぜって、私はブリッジをしませんから」

第41回世界選手権大会は戦国世界選手権とでも言うことができる。力が拮抗(きっこう)したチームが多いからである。

23日まで埼玉工業大学で開かれていた第二回国際卓球連盟(ITTF)科学会議での報告によれば、スマッシュ時速は200キロ、ドライブやカットの回転は1分間に1万回転を超えている。これを0.2秒ぐらいの反応時間で打つ。人間技の極致だ。だから、この大会では、その極限の動きをしっかり見ていただけるように工夫した。

NHKも、至近距離へのカメラセッティングなど協力してくれた。カラーマットも第5世代、ブルーテーブルと合わせて、黄色いボールや白のコスチューム、コートがお花畑のようにもなる。

ただし、卓球をしっかりと、そして美しくお見せする試みは緒についたばかり。バルセロナ・オリンピックで完成に近づく。

ご夫妻で卓球を楽しまれるサマランチ国際オリンピック委員会(IOC)会長のアイディアもいくつか参考にしている。

IOCといえば、今回のコリア・チームの誕生は、IOCの長年の努力も加わった成果である。

私も参加したソウル・オリンピック前からの話し合いで煮詰まっていた国家、その他の点が有効に活用された。ローマは一日にしてならず、である。そして、これがすぐにバルセロナでの統一チームに直結すると思うのは早計だろう。

会長就任以来、4年経った。90カ国を何回も訪問してみて痛感したことがある。

地球上には自分たちには責任のない困難に苦しんでいる人たちがいかに多いか、ということだ。

今度の世界選手権大会は東西ドイツ、南北朝鮮、南北イエメンなどの統一チームが実現したが、中国と台湾、イスラエルとパレスチナ、南アフリカ、バルト三国、カンボジアなど、晴ればれとした笑顔の関係にはほど遠い国もある。

そういう意味で、国境が見えない“地球”という名を冠した併催大会の持つ意義は大きい。

10年したらトレンドになることは、いま種をまいておくことが必要なのだから。

国際卓球連盟会長:荻村伊智朗

出典:東京新聞 朝刊 1991年4月24日「シェークハンド・いつか全世界 笑顔の大会を」

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