編集部注:『私のスタンディング・オベーション』は、1991年に日本卓球株式会社(ニッタク)より刊行された、荻村伊智朗による卓球評論集である。世界各国の名選手を荻村独自の視点で論じた一冊であり、その卓球哲学が凝縮された著作の一つである。
アペルグレン
’82年、’88年、’90年ヨーロッパ選手権大会男子シングルス優勝
- 1961年10月15日生まれ
- 178cm、65kg
- ’82年ヨーロッパ選手権大会男子シングルス優勝
- ’85年世界選手権大会男子ダブルス優勝
- ’88年ヨーロッパ選手権大会男子シングルス優勝
- ’89年世界選手権大会男子団体優勝
- ’90年ヨーロッパ選手権大会男子シングルス優勝
”私はプロだ”
スウェーデンにアペルグレンがよみがえって、中国の前進もますます厳しいものになってきた。昨年末から今年二月迄のリンドの連戦連勝、ア欧でのワルドナーの優勝、全英でのパーソンの優勝、そして欧州チャンピオンに返り咲いたアペルグレン、というすごさだ。
欧州選手権ではイングランドが台風の目だった。団体で活躍してスウェーデンを苦しめたプリーンが、男子シングルスに入ってから公認を取り消されたラバーを使用していたことが発見されて貼り替えさせられるハプニングがあった。これがなければ男子シングルスを狙えた、という話もある。
だが、大会随一の勝負はワルドナーとの準決勝で、六年前のブダペストでの決勝戦を上廻るすごいラリーの展開だった。スウェーデンのテレビにも画像は衛星で送られたのだが、家族の視聴者は決勝戦よりも準決勝に興奮した、という。よくスポーツを知るある解説者によれば「この10年でテレビ放映された最高の卓球試合」とのことだった。
このコメントは人によってうなづく人とうなづかない人にわかれるだろうが、アペルグレンの卓球スタイルが観る人を楽しませるのは確かなようだ。
卓球の得点要素はご存じのように三つ。一つはプレースメント。ボールをどこにもってゆくか、ということ。右か左か、前か後か、という送球場所で得点を狙う。
第二の要素は球速。速いか、遅いか、またその変化、などで得点を狙う。いうまでもなく、この二つの要素は茶の間の素人にもわかりやすいし、50メートル離れた観客席からでもわかりやすい。
第三の要素は回転。卓球選手のつくりだすボールの回転がYS11のプロペラよりも速く廻る、なんてことは素人にはまったくわからない。見ることもできないし、ふれたこともないからだ。第三の要素が多い回転サービス、ループドライブ、切れたカットともナックルカット、などは観る人の理解を拒む。だから観る人は得点とみないで失点とみる。
アペルグレンの卓球は第一と第二の要素を主につかう卓球だから素人受けするわけだ。けれども彼はスタンドプレーを狙ってそうやっているわけではない。これが彼のライフスタイルなのだ。彼はそういう卓球が好きだし、また、他のやり方は苦手なのだ。確実にラリーを続け、機をみて強烈なフォアストレートのドライブやバッククロスのフォアハンドドライブを相手のフォアに放つおなじみのスタイルだ。
彼はいう。「私は大学教育を受けていない。卓球に打ちこもうとすれば大学の学業とは両立しない。だから私は卓球に賭けた。そして私は成功したプレーヤーになった。だが、だれが私の40才以後に高給職を与えてくれるだろうか。私の老後は私がみなければならない。だから私はプロの世界が充実することを望むし、私もプロらしくやる。自分も満足し、観客も満足するプレーを目指すんだ。」
(1988・6)
’90年は四月に欧州チャンピオンとなり、概ね良い年だった。将棋の櫓囲いのように守備をまず固め、チャンスにはすかさず打って出るアペルグレン戦術は素人にも分かり易い。上体の重量のコントロールに自信があり、心肺機能に自信のある若者にチャレンジして見て欲しい戦型だ。
※協力:日本卓球株式会社
出典:荻村伊智朗『私のスタンディング・オベーション』(1991年、日本卓球株式会社発行)















