後藤会長訪中の成果を祝す
第31回世界選手権大会は成功裡に終りました。世界選手権は卓球最高の行事であり、これのできいかんによって卓球競技そのものの声価が高くまた低くもなるものです。
文革後初出場の中国チームの活躍を中心として、世界選手権大会は内外に大きな話題を与え、中米関係の新局面展開への一石を投じ、日中関係にも大きな衝撃を与えるなど、“吹けば飛ぶよな”ピンポン球が、これほど重くかつ広い可能性をもつものだということがPRされたことだけをとってみても、国際卓球の仕事として大成功をおさめたということになりましよう。
これらの多くは、今春早々に後藤鉀二日卓協会長が訪中し、日本卓球協会及び日中文化交流協会と中国球協会及び中日友好協会との間にまとめた会談紀要(本誌3月号48貢参照)に端を発するものです。
後藤会長の訪中については各方面からいろいろな観点での評価がなされています。が私は高く評価したいとおもいます。また、卓球協会の責任者がこのような決断をすることを可能ならしめた客観情勢が、日中文化交流協会や日卓協関係者その他の中国に友好的な人達によってつくられたことも高く評価するものです。
今後も我々の愛好する卓球竸抜が、そのいろいろの活動を通じて人類相互の理解の促進や世界平和に役立つことを希望します。
気力第一、体力第二、技術第三
試合は、ふだんの練習や研究の成果を問う場所です。試合の時間は限られています。
この限られた時間にベストを尽せばよいという気持では大した内容の試合はできないものです。ふだんの練習にどれだけベストを尽したか、ということが大切です。しかも、ふだんの練習も時間が限られています。
その限られた練習時間は、実は、練習をやっていない時間に、考え、研究した成果をぶつけ、実験してみる場所であり、時間でなければならないのです。
男子シングルスで優勝したステラン・べンクソンの日本における4カ月の生活は、そうした考えのもとになされ、その後もそうした考えの選手生活がおこなわれました。
そこに人もおどろく彼の急成長の秘密があります。
”やっつけ仕事”という言葉があります。何の準備もしないでいきなりその仕事にとりかかり、一定の時間なり量なりをやれば、後始末もせずに終りにしてしまうやりかたの仕事ぶりを評する言葉です。
社会での多くの人の仕事ぶりをみていますと、一日のうちの8時間を切り売りする”やっつけ仕事”の考えかたで仕事をしている人やグループなどが多いことに気がつきます。こういう人やグループは伸びず、明日の仕事のために鋭気を養い、余暇に研究や勉強をして備え、時間、時間にその成果をぶちこんでゆく人やグループが急成長を遂げています。
それはだれでも”わかっている”といいます。しかしできる人とできない人といるのです。
“一日の仕事が終れば疲れてしまって、とても明日のことを考える余裕はない””もう卓球のことは考える気持になれない”こうした状態は多く体力に関係しています。
しかし、人間の体力は、精神の力によって思いがけない余力が発揮できるものです。
私はだから、なにごとも気力第一、とおもいます。ほんとうにすばらしい人生を送ろう、と決心すれば、自分の一生をかけ、青春の貴重な時間を費す仕事に全精力を注げないはずはありません。
中国選手団がみせた競技活動への集中力はむしろ世界選手権の転戦によく示され、日本チームとの比較の好材料を提供しました。
ベストをつくすということは、いつ、何に対してか、を考えることが必要だ、という感じをもちました。
1971年5月
荻村伊智朗
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