世界の3部から抜だけそう学生陣
伸びが目立たない
学生卓球界の仲び悩みはほんとうに残念だが目をおおいたくなるものがある。サラエボ以後をふりかえってみても、学生チームの訪中成績、日本選手権の成績も振るわなかった。
今年2月のネパール遠征でも、高島の発熱というアクシデントがあったとはいうもののインドにも敗れて3位だった。
アジア大会には小山、田村、久世の東、中、西の学生代表が選ばれた。しかし、実力ではこれを上回る選手が社会人に目白押しである。いまのところ、学生が日本代表に選ばれるときは、「これをよい刺激としてもっと伸びてもらいたい」という願いをこめた意味あいが強い。この分だと、今年の日本選手権も上位は変わりばえがしそうもない。6月に開かれた全日本実業団選手権大会も、「学生の試合よりよほど充実している」という声が記者席にも多かった。
昨年サラエボ大会で苦杯を喫したあと、日本卓球協会は総括ミーティングを開いた。今後の日本の強化をめぐって活発な意見が出され、討論がおこなわれた。代表級選手の「協会としてまとめた強化に全力をあげよ」という意見と、役員のうちの「母体がやればよい、協会は母体が強化した選手をつれてゆけばよい」という二つの意見が両極であった。
どちらの意見も正しい面を含んでいる。特に第2の意見のような方法で日本の国際竸争力が強化されれば申し分ない。なんといっても学生卓球界がいちばん練習も豊富だし、若さもある。これが十分にスケジュールを消化できるようにしなければならない。だから、昨年の総括ミーティングでは第2の意見を主とした折衷的な案が採択された。
そして一年。日本の国際競争力の主役にはやはり学生が登場しなかった。
関係者が必死の努力をしていないのか。とんでもない。各大学の関係者は懸命の努力をしている。
だが、国際試合で見せる学生の力は、インドやイラン、アフリカの上位と同じぐらい。カナダ、アメリカなどのトップクラスとも伯仲だろう。ということは、現実を直視した場合、学生卓球界の平均的実力は世界の3部、といったところだろう。
こうした状態から抜け出し、昔のように学生の一部は世界の一部、学生のチャンピオンは世界のチャンピオン、という状態を復活させるためには、当面三つのことがらに気を配るのがよいのではないだろうか。
1 指導者は自信をもっともとう
高校には熱心な指導者が多い。年令の高い経験豊富な人も多い。高校球界の名門校からは、継続的によい選手が出てくる。こうした高校卓球界の現実を尊重して、大学の卓球部の監督やコーチには、選手に対する指導に遠慮がみられるような気がする。
それはむしろ、選手に対する遠慮というよりは、その選手をおくってくれた高校の指導者に対する遠慮といえるかもしれない。
「いじくって選手をダメにしたりしては、せっかく育ててくださった人に対して申しわけない」という気持ちが先に立ってしまうと、どうしても思いきった指導、思いきったフォームの改造などはできない。
そういう気持ちを大切に持ちつづけながらも、思い切った積極的な試みを選手と共にしていってもよいのではないだろうか。
それのできる大学指導者も多いと思うのだが。
2 選手は練習量を増やそう
大学紛争があってから、私の見るところでは学生選手の練習量は半分ぐらいにへった。それから、もう数年、だいぶ練習量は増えてきたと思うが、“化物”とか“怪物”といわれるような練習の虫の話をついぞきかない。「あいつはよく練習します」という選手でも4~5時間である。これではサービスの練習一つ満足にできていないのではないか、と、つい考えてしまう。
ボリショイバレーでも卓球でも、ほんとうに世界レベルの選手になろうとするのならば、日に8時間は台につくことを目標にしてほしい。だめなら、そのほかのあらゆる方法でおぎなってほしい、と思う。
8時間卓球をやる体力のない人は、技術練習は二の次にして、体力づくりからやりはじめた方がけっきょく最高レベルに近づけることになる。
3 行政面の工夫も大切
学生連盟の幹部の方々が、いま学連をはじめて新しく創立されたとしたら、いまと同じやりかたを採用されるだろうか?
東京六大学野球と同じような少数精鋭で発足したかつての学生リーグ戦。いま多数の加盟校がある。昔の何倍だろうか。その各校の力を掘りおこし綜合利用するシステムにするには、どうしたらよいだろうか。各校の中で、卓球部に対する一般学生の支持や理解を深めるための、学内対策事業はいまの学生気質からみて、どうやったらよいだろうか。リーグ戦の会場は、一ヶ所がよいのか?フランチャイズ式の方がよいのだろうか?社会人のチームが育ってきたがこれらのパワーを学生球界の向上のために逆流させる工夫を行政面でどのようにすればよいだろうか。
リーグ戦や大学対抗で感じたことを書かせてもらったが、少しでも参考にしてもらえれば、と思う。コーチ陣、選手、部の三位一体となった努力が、今年の日本選手権、来年の世界選手権で実ることを祈っている。
1974年7月
荻村伊智朗
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