『すぐれた卓球選手は必ずすぐれた卓球研究家である』1974年8月 卓球ジャーナル「発行人から」より-荻村伊智朗

すぐれた卓球選手は必ずすぐれた卓球研究家である

以前、私はある雑誌に十年間協力し、卓球の記事を書いていたことがある。あるとき、編集者から、「名古屋の中学生だかの読者で私の尊敬する人にあなたの名前を書いてきた読者がいる。とても熱心な感じを受けるのであなたの本をおくろうと思うがサインしてもらえないか」といわれた。私はよろこんで「中高校生指導講座」という私が書いたはじめての本を贈った。

本を人に贈るときにはたいていその人の名前を本に書きこむ。その人は長谷川信彦君といった。長谷川君とはのちに合宿を長い間いっしょにやった。当時の日本の代表選手達は研究家としても優秀な人が揃っていて、いま、それぞれ社会に貢献する大型の人材に育ってきている。

長谷川君もそうした優秀な先輩達の中で、合宿に入り、ミーティングや読書、メモ、練習日誌、といった良い習慣を身につけ、崩れにくい、ち密な卓球を築きあげてこれたのは幸運だった。単なるハードトレーニングや練習量の多さだけでは立派な卓球を築き上げることはできない。中国の名選手達も、スウェーデンや日本の名選手達も、たいへん多くの知的な作業をへてでき上がってきた人たちである。

卓球ジャーナルの読者の中には、熱心な中学生選手、高校生選手が多い。この雑誌はかなりむづかしい内容が多いのに、それでも多数の中学生や高校生の読者がいるということは、日本の卓球の底力の大きさを私に感じさせる。卓球はふつうのスポーツとちがい、気力、体力、技術、だけでなく、知力(知的作業能力といってもよい)の要素が大きいスポーツだ。それだけに、世界の一流になろうと志ざす人はこのていどの雑誌は読みこなしてほしい、と私はおもっている。

私は高校一年の9月に卓球をはじめた。そのときにも、月刊の卓球雑誌があった。なかば文語体で、むづかしい表現が多かった。内容は卓球ジャーナルよりやさしかったが、言葉づかいや表現はむづかしい、といってよかろう。単行本になっている指導書も何冊かあった。

私のものごとに対するとりくみかたは、あまり要領がよくない。無駄を承知でできるだけ大きな範囲で資料にあたる神田の古本屋街店をあさって、卓球の本は、なんでも手に入れて読み、先輩から古い本を貸していただいて読んだ。さすがに借りた本にはそうしなかったが、自分で買った本には自分の意見を書きこんでいった。

感心するところには線を引き、すこしでも自分の意見とちがうところには遠慮なく批判的な意見を書きつづった。

私の書きこみの特微は、もう一種類ある。ある文章から、全然別の系統の技術や、ことがらについてのヒントを得て連想し、「そういえば…」といったおもいで書きつらねてゆく。

卓球の本にかぎらず、私にとって読んで面白い本とは、“その文から自分自身の考えを誘いだされ、なにかをつくり出そうとする意欲や空想を刺激されるもの”である。

本の読みかたはテレビのみかたと同じではつまらないとおもう。テレビは一方的にメッセージを伝えられる。そして、次から次へと生活時間がそのままテレビの中と外とでいっしょにすすんでゆく。しかし、本はちがう。気にいったところや大切だと思うところで本の中の時間をとめることができる。自分の考えをおしすすめてから、また本にもどってくることができる。また、分量はといえば決して多くはない。一回読むだけならば、1~3時間で読むことができる。

しかし、スラッと一回読んで、なにかわかったような気持になってしまってはつまらない。卓球ジャーナルは内容の高さからみればたいへん安い本だ。値段が安いからといって、価値のある内容を値段なりに安っぽく扱ってはいけないのではないか、とおもう。

卓球ジャーナルの筆者のほとんどはプロフェッショナルな作家ではない。文章の表現力も最高に上手とはいえない。だが、ジャーナルに登場する以上は、“なにかすぐれたもの”を卓球に関して会得しているからこそ登場している。

編集スタッフももちろん“この人がもっているすぐれたものはなにか。どういう方法でそれを読者に伝えればいちばんよいのか。写真でか。文章でか。対談でか。”と工夫している。

それでも、うまくあらわせないときがあるとおもう。読者に甘える気持はないが、表現力の足りない面を、読む力で補っていただきたい。さらに自分の独創力でひらめいた考えをその場で書きこんだり、あとでメモでつけ足し、よりよいものに仕上げてゆく。そんな作業に卓球ジャーナルをつかってほしい。

そのようにたくさんの時間を卓球に賭け、努力する選手である読者は、必ず強くなることを私は保証する。

1974年8月

荻村伊智朗

1974.4.8.すぐれた卓球選手は必ずすくれた卓球研究家である

 

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