『日本卓球、今後の興隆策について』日本卓球協会 専務理事 荻村伊智朗 1983年8月6日

日本卓球、今後の興隆策について

理事会・評議員会殿

専務理事 荻村伊智朗

1983年8月6日

 

第37回世界選手権大会は、別冊報告書の通り、成功裡に組織運営され、第三者からも高い評価を受けました。日本チームの成績も無冠とはいえ、ノビサド後、2年間の日本卓球界全員の努力が実り、長期低落傾向が止まり、少し向上しました。各方面での御努力に対し、深甚な敬意を表します。

大会の財政面については、御高承の如く収入予算に対し、1億数千万円の減収が募金関係(財界募金9,500万円、組織募金1,500万円等)で発生しました。他、予想を上回る参加と国際政治に係る保安対策等のための支出増という二重苦を経験いたしました。にもかかわらず、6月理事会・評議委員会の決定の範囲内で決算が可能な情勢となりつつあることは、誠に後同慶の至りでございます。

ところで、1974年横浜でアジア選手権大会を開催いたしました折には財界募金は6,500万円、3年前のアジアアフリカ・ラテンアメリカ大会の折には二千数百万円と、多くの御支援をいただきましたが、今回は長期不況の影響もあり、思うにまかせなかったことと拝察しております。

しかしながら、世界選手権開催を引き受けた数年前は、この募金なしに大会が開催できるとは何人とも考え得なかったにもかかわらず、実際には卓球関係者、船舶振興会、協賛企業の協力にて開催できたわけであります。

こうした一連のできごと、特に経済面でのできごとは、私達の卓球が、いまや全く新しい環境に入ったことを象徴的に示していると存じます。端的にいえば、英国よりスポーツの概念を移入した100年前から続いていた“パトロンあってのスポーツ”という考えから、“自分たちでやるスポーツ”の時代にいやおうなしに立たされた、ということだと存じます。

 

テレビもチャンネル占有率25%という高率を上げましたが、民放のため、全国の中には見えなかったところもありました。

今や“英才はテレビにでるスポーツに集まる”ともいわれています。

その面で卓球は不利なスポーツです。

学校体育の現場を預かる教師は卓球出身者が少なく、課外活動のスポーツ部にも影響力が強いこれら教師達は、適性のある運動選手の素材は他の運動に回すことが圧倒的です。

運動具店における卓球用品の売り上げシェアは2% (公認工業界田舛会長)とのことですが、現在の状態では卓球専門メーカーがテレビ番組のスポンサーやスポット広告のスポンサーになることはできないでしょう。

一方、他競技は、小学生バレー、小学生サッカー、幼稚園サッカー、全国大会と幼年期にまで大会を拡げ、英才の獲得に努めています。

他方、全国の自治体は、卓球よりやさしいスポーツの普及に努めています。私は全国社会保険連合会、文部省、その他の仕事で各地をここ何年か歴訪させていただき、知事をはじめとし、町村の保健体育課員の方々とお話をする機会が増していますが、日本が老人社会に突入していくことに伴い、医療費の支出は、国及び自治体等にとって深刻な問題ですので、いかに高年齢者や婦人層にスポーツを普及するかは、いまや、社会福祉の問題というより、経済問題でもあることを学んできました。

そうなると、卓球などはいちばん先に大々的に採用されてしかるべきだというのは、うぬぼれで、もっと手軽で、もっとやさしいスポーツが普及の対象になっています。そして、適当なスポーツがなければ、富山県等をはじめ、多くの自治体が試みているように、やさしいスポーツを新しく作っています。例えば、風船バレー、例えばスポンジテニス、たとえばゲートボール、たとえば日本風カーリング、などなどです。

 

卓球ブームを呼ぶためには、中国に勝って世界一の座を獲得することだ、という考えもあります。卓球を興隆させるためには、強化と普及が二大要素であることはまちがいありません。中国に勝つ、ということは、選手たちがプロフェッショナル(高度に専門的)な強さを身につけることに成功するとともに、コーチ水準もプロフェッショナルになる必要があります。

中国が故周恩来の施策に従い、文革の混乱期が十年あったにせよ、三十年にわたって築き上げてきたプロフェッショナルなコーチ水準と選手水準は高く、熱く、一朝一夕に抜きがたいのは御高承の通りであります。この方面でもコーチ力の強化は最も重点的に実施する考えです。

 

もとより我日本卓球協会は数ある日本のスポーツ協会の中でもすぐれた業績を挙げてきた優秀な団体です。そして、将来へ向かっての施策も新しくいくつも実施してきました。しかし、どうやら時代は私たちにもっと大胆な発想の転換を要求しているように存じます。

卓球が頭打ち(強さ、普及)なのは、マスメディアにのらないこと、難しすぎること、この2点に問題があります。

この2つの問題を、自分たちの手で解決してこそ卓球は興隆すると存じます。卓球に基本的に関心のない誰かが、“あしながおじさん”のように、卓球に大々的な救いの手を差しのべてくれるとは期待しない方がよいと存じます。日本の実業界は近隣諸国とはマネージメントの実情がちがいます。また、現在の社会制度に近々のうちに一大変革が生じることは予想できません。会長が直億円もポンと出した、とか、国が卓球を重点競技に指定した、とかが他国ではあるとしても、日本ではないでしょう。

バレーボール強会が強化予算1億円、体操協会が8千万円(近藤→荻村)というのに比べ、日卓協が二千万円(うち高体連、学連、スポーツ科学研究等で700-800万円支出のため、実質ナショナルチームクラスに使えるのは1200-1300万円程度)という現状を私達の手で改善しなければ“打倒中国”、“王座奪回”は画餅に帰するのではないでしょうか。

 

以上のような難点から、次のような提案を申し上げます。

1-1

3年後 (昭和61年度)より、ホープス・ミニ部門(仮称)を設け、9歳以下のチーム大会をホープス大会に併設する(または別途に行う)

来年度より申請作業中の船舶振興会の補助金、その他協賛企業(交渉中)にもそのような展望の下で折衝する(全国25000小学校区域に男女各2チームを誕生させ、1チーム15名ならば、150万人のプレイヤーを獲得する)

1-2

この場合、ホープス・ミニ部門は現在より10cm低い台で行う(現代卓球の打法は水平打法が必須なのに、下から上へこすり上げるショートやロング、肘を高く上げるロングなどの癖(神経回路)ができてしまうのを防ぐため)

1-3

来年度または再来年度より、ホープス級の選手は異質ラケットを使用禁止とし、両面を打球面にする場合は同質とする。

(異質反転技は3-6ヶ月あれば習得できるので、国際試合予備軍となる高校からでもおそくない。この年代から反転技の習得とその対策に時間を使わせず、基本的な強さ、技の習得に時間を使わせる)

1-4

3年後 (61年度)を目標に、卓球台の「公認」に加えて「推奨」制度を新設する。その内容は、現行の高さと10cm低い高さとに、二段階調節可能な卓球台を対象とする。

1-5

5年後は二段階台しか公認しない。

(現在の各地の体育館は、建設時に倉庫スペースがあらかじめ十台、というように規定されている。2種類の台を10台ずつ置く余裕は今後ともない)

1-6

これによって生じる卓球台構造上の特許実用新案等の問題については、あらかじめ公認工業会に対し、各社間の協調を呼びかける。仮にある社が画期的な安全性、簡便性のある構造を考案した場合、公開または格段に安い使用料にて他メーカーに内容を開放してもらうことを前提条件として公認してゆく。また、大会使用指定台とする。

2-1

5年後を目標に、バンビ級(仮称:幼稚園児の年齢)の大会を新設する。

2-2

ホープス、ホープス・ミニ、バンビ級の大会は、サッカー連盟(岡野→荻村)の例などにもならって、それぞれ連盟を設け、日卓協の加盟団体、又はこれに準ずる扱いをし、日卓協の肥大化や業務集中、役員の繁忙を避け、専門的に育成させる。

3-1

日本実業団リーグを日本を東西南北四地域、または10ブロックに分けた地域などの地方リーグ(第三部的なもの)を包括運営できる経済基盤を達成することを条件に加盟団体又はこれに準じる扱いに昇格させる。これに伴い、地方中小レベルの企業でも意欲を持って卓球を維持し、地方リーグに参加し、努力しだいでは全国リーグにも参加できる道を拓き、話題を提案する。

大企業のスケールの大きい活動、選手獲得の前に萎縮した感のある地方企業、中小企業の卓球部活動を活性化し、地方のマスメディアにも卓球への参加を求めるイニシアティブを日本実業団リーグ成員が積極的に行ってもらう。

4-1

1~2年度後(昭和59年度または60年度)に、カデットクラスの大会での異質ラケットを禁止する。

ジュニアクラスは国際大会予備軍であるので禁止(国際ルールとはちがうルールの採用)はできない。しかし、中学生レベルまでは小手先の変化ではなく、本格的な基礎作りをすべきである。

だが、指導者(コーチ)に現行ルールのまま、これを求めるのは残酷である。彼らは勝たねばならない。ルール上「ラケットの異質や反転にたよらず、勝ちを求める」制度にしてあげるのが、日卓協の役割であろう。

5-2

中学校の組織も加盟団体またはこれに準ずる扱いをする方向で検討し、育成する。

卓球がオリンピックや世界で勝っていくためには、国内で、幼児期からの英才の獲得競争、本格的な強化、の二つに成功しなければならない。

中国は6歳から卓球をはじめさせ、明年からは13歳以下は新ルールでの全国大会を開催する。

他競技との競争と中国との競争、この二つの問題をうまく解くためには各段階での組織を強くすることである。

6-1

明年度より、小、中、高(ホープス、カデット、ジュニア)の登録費を一律300円にしたい。

このうち1/3を加盟団体(都道府県卓協)

1/3を高体連、中学部門、ホープス部門に還付またはその部分の予算として使用する。

日卓協は1/3を収入とする。

サッカーなどは高校生一人1700円の加盟登録費である(大阪高体連幹部)

現状から、300円は決して高くないと信じる。

6-2

これに伴い、大学生、一般社会人の登録料も更新する(大500、社800-1000?)

6-3

日卓協は身分証明書(会員カード)その他のサービスを検討、実施する。

7-1

もっと易しいボールの往復速度(または、自分が打つときのボールの速度)がおそい卓球を考案、制定し、婦人層第二部人口、老人層第二部人口を開拓する。

 

卓球を次の三つの特質に因数分解する。

1. 台があること

2. 境界が台上にあること

3. ボールが往復する

 

卓球はもともとフランス宮廷で室内で床上で掌でボールを打つパームボールが起源である。

これが台上へ上って、卓球となり、屋外へ出てテニスとなった。

“ラケット”とはラテン語で“掌”の意である。

卓球も当初はテニスと同じ、ガット貼りラケットで打球された(何で球を打つか、はあまり問題でない)

境界は必ずしも中央にある必要はなく、ハンディキャップにより移動してもよく、しきりが一つだけでなく、二つでも良く、必ずしもネットでなくてもよい。もともと、ネットの高さもその都度変わってきたものである。

ボールは必ずしもセルロイドでなくてもよく、風船でもよい。

もともとボールは毛糸の球だったり、ゴムだったり、コルク球だったりしてきた。ビニールでも、プラスチックでも、セルロイドでも良いが、

(1)いまよりもおそい(減速比が大きい)

(2)回転がかからない(やってやさしく見てわかりやすい)

(3)みやすい(色または大きさで工夫)

 

ことを条件としてメーカーともども研究すべきである。

この際、いろいろなルールで、いろいろなリーグや団体が乱立するのを防ぐべきである。(ゲートボールの例を他山の石とする)

7-2

現在、静岡のベテラン大会に千余名が参加し、スウェーデンやヘルシンキに100名もの老人が参加するのをどうみるか。

この人たちは特殊な才能を持った、あるいは特殊な思考を持った人たちと考えた方が良いのではなかろうか。こんなに難しく面倒になり、速い卓球を、そのままの状態で楽しむ、あるいは楽しめる人たちは特別な人たちです。

日本の人口の1/3が老齢社会になろうとしている。卓球は3,000万人からみると難しすぎる。

目下、長野医大の吉松教授(巨人軍のリハビリドクター、野球が専門だった)と中京女子大学の油座教授(航空宇宙研、自衛隊パイロットの訓練等の研究で功績)に対し、一般の主婦層、一般の老人層の筋力反応速度などから見て、楽しめるボールの速さはどれくらいかを研究していただいている。

手元へ来て、止まるが如きボールを扱うスポーツほど手軽に楽しめる気持ちになる、と仮説を立てている。

7-3

この新卓球=スーパーピンポン(仮称)の普及には自治体と積極的に組んだらどうか。

 

理由

1.末端卓球組織は時間的余裕がない。

2現在の卓球を大切に思っている人ほど、新しい“あそびスポーツ”に対する心理的余裕も少ない

3市町村スポーツ課 体育保健係等は四六時中、住民にいかにスポーツをさせるかを考えているプロであり、体指(体育指導員)という実行部隊ももっている

4自治体はスポーツへの人口参加率を高めよ、という至上命令をもっている

8

以上の提案が採用、実施されるかは年数もかかると思われますが、

1卓球人口が数百万人増える

2幼年期から本格的なトレーニングをする

 

ことにより、計り知れないメリットがあり、卓球は興隆するでしょう。

 

1983年8月6日

日本卓球協会 専務理事 荻村伊智朗

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