卓球の数字『日本の千人』より抜粋 1994年 荻村伊智朗

(編注:「日本の千人」第2号より抜粋。「日本の千人」は荻村伊智朗が日本卓球協会 国際競争力向上委員会委員長のときに発行された雑誌)

国際競争力向上委員長 荻村伊智朗

卓球の数字

「彼を知り、己を知れば、百戦して危うからず」というが、卓球では、相手を知る前に、彼我が戦う物理条件をよく知る必要がある。条件が変われば技術が変わり、戦術が変わる。新しい条件に即して、戦術・技術を考案しなければならない。ものぐさを決め込めば敗者になる。

過去の経験で指導する恐ろしさは、現代の条件が過去とどう変わったかを知らず、過去の条件のもとに成立した戦術や技術を指導することだ。

条件は、ほんの少しの変化でも、決定的な違いをもたらすことがある。数%の球速の違いや、回転の違い、持時間の違いが、スマッシュできるものをできなくする。もちろん、その逆も成り立つ。

  項目 内容 備考
1 ラケットの速さ(打撃瞬間) 60~70Km/h スマッシュの振りを日本の若手選手を対象に計測
2 ボール速度(初速) 196Km/h チェコ協会科学委員会のシェルベックの球速(?)
3 台の長さ 2.74m  
4 対峙距離(打球点~打球点) 3.5m 前陣同士。クロス頂点打
    4.5m 前陣対ドライブ
    6.5m 攻撃対カット平均。強打を返球するときの渋谷、松下の位置は、2.8m~3.3m。このときは6.5mと考える。

 

5 ボール速度(打球点~打球点間の平均)

平均時速 秒速 4mを飛ぶ時間 5mを飛ぶ時間 6mを飛ぶ時間 ラリー/分 備考
120km =33.3m 0.12 0.15 0.18 極限的な強打
80km =22.2m 0.18 0.2 0.24 強打者の全身強打
60km =16.7m 0.24 0.3 0.36 前腕頂点強打した球が相手位置に達する時間
40km =11.1m 0.36 0.45    
30km =8.3m 0.48 0.6 0.72 ※1
20km =5.6m 0.7 0.9 1.07  

※1 前陣プッシュ対前陣プッシュ(3m=インパクト間距離)で、ピッチ90の球速は、秒速9メートル。ピッチ80は秒速8メートル。福原愛ちゃんの強打。ツッツキは40往復/毎分、粘るカット打ちは50往復/毎分としてツッツキ(2.7m)の球速は、3.6メートル。相手が打ってから自分がツッツキ・ツッツキ打ち攻撃する打球点に達する時間は0.75秒。

 

(超高速ビデオを使っての測定によれば、伊東繁雄選手のスマッシュ初速は104km/h、福原愛ちゃんの初速は54km/hだった。93年12月末調べ。初速100km/hの球速は、4メートル飛ぶと約60km/hに減速する。平均時速は、約80km/hである。福原愛ちゃんのスマッシュは、平均時速40km/hで4メートル飛ぶ。)

 

6 普通の人の全身選択反応時間:0.35秒

(平均時速40km/hのボールを打っていたのでは、練習を積んだ相手には十分な時間を提供する。初速75km/hで、平均時速60km/hのボールを打って、初めて球速での主導権をとれる。)

 

7 感覚器(眼)からの刺激が脳に伝わり、判断がなされ、体に反応させるべく命令が電気的な速度で体の末端、(手足の先)までに達する速度:0.1秒

 

8 四つの判断要素(時系列標準発生順)

 (1)ボールの進入方向(移動先位置判断と姿勢調整の判断のため)

 (2)ボールの速度(持ち時間の判断、移動先位置の判断のため)

 (3)ボールの回転(ラケット角度、振りの方向・サイズ・速度の調整のため)

 (4)ボール軌跡の曲線(移動先位置調整、姿勢微調整、打球点の判断のため)

 

9 ボールの回転:ドライブ:173回転/秒

        ドライブ対カットの回転比:同じ振りの能力で、カットを100とすれば、ドライブは144。

提唱-1

ショートの攻撃性は、世界のトッププラスではほとんどない。平均時速30キロの球なら、全身強打の反応時間は十分あるからだ。

相手が台から少し離れている場合で、両ハンドからの攻撃力を持っている場合、ショートよりはバックハンド強打やバックハンドスピードドライブを打とう。位置取りを、30cn前後に調整するだけで、ショートからバックハンド強打(前腕だけのでもよい=初速60~70キロ台が出れば。)に切り替えることが可能だ。

男女を問わず、グリップを問わない。0.35秒以内の相手持時間に追い込む打法で戦い続けられれば、高撃退攻撃(※原文ママ)の戦いで勝利することができる。ショートスイングで、ラケットのヘッドスピードを瞬間的に上げる技術的工夫と、筋力養成が必要になる。

提唱-2

卓球は、予測のスポーツである。日常生活から、予測能力を高める工夫を行うこと。

卓球は、人間能力の最高の反応速度を要求する超近代的なスポーツだ。日常生活から、早い反応、正確な反応を高める工夫をすること。

卓球は、複雑な戦術。技術を使う高級なゲームスポーツだ。練習内容は、単線から複線、そして乱戦へ高めること。また、単回転から複回転~乱回転へと高めること。また、単速度~複速度~乱速度へと高めること。また、単リズム~複リズム~乱リズムへと高めるとこと。

一度獲得した技術レベルにとどまる練習は、気持ちいいが進歩がない。

レベルをだんだん上げる練習は、心理的にも身体的にも苦しい。しかし、進歩が大きい。

今現在よりも高い目標を達成するためには、苦しくても、レベルの高い練習をすること。

身体的に苦しい場合は、練習時間の単位を短く。

心理的、技術的に難しい場合も同様。短期に集中し、それを繰り返すのが、効率が良い。

練習相手も、単から複、複から乱の判断、動き、技、を要求される練習方法を開発しよう。

日本の千人第2号表紙

日本の千人第2号1

フォーム

関連記事一覧

  1. 日本の千人第3号3
  2. 報知新聞クックママ2
  3. 日本の千人第3号1

Translation

最近の記事

  1. 朝日新聞昭和29年4月
  2. 青卓会1986-06-26
  3. 1955年ユトレヒト大会オーストリアのリンダ・ウェルツェルと
  4. バタフライトピックス1955表紙
  5. 長野五輪承招致報告書1

カテゴリー

PAGE TOP