(編注:「日本の千人」第2号より抜粋。「日本の千人」は荻村伊智朗が日本卓球協会 国際競争力向上委員会委員長のときに発行された雑誌)
国際競争力向上委員長 荻村伊智朗
卓球の数字
「彼を知り、己を知れば、百戦して危うからず」というが、卓球では、相手を知る前に、彼我が戦う物理条件をよく知る必要がある。条件が変われば技術が変わり、戦術が変わる。新しい条件に即して、戦術・技術を考案しなければならない。ものぐさを決め込めば敗者になる。
過去の経験で指導する恐ろしさは、現代の条件が過去とどう変わったかを知らず、過去の条件のもとに成立した戦術や技術を指導することだ。
条件は、ほんの少しの変化でも、決定的な違いをもたらすことがある。数%の球速の違いや、回転の違い、持時間の違いが、スマッシュできるものをできなくする。もちろん、その逆も成り立つ。
項目 | 内容 | 備考 | |
1 | ラケットの速さ(打撃瞬間) | 60~70Km/h | スマッシュの振りを日本の若手選手を対象に計測 |
2 | ボール速度(初速) | 196Km/h | チェコ協会科学委員会のシェルベックの球速(?) |
3 | 台の長さ | 2.74m | |
4 | 対峙距離(打球点~打球点) | 3.5m | 前陣同士。クロス頂点打 |
4.5m | 前陣対ドライブ | ||
6.5m | 攻撃対カット平均。強打を返球するときの渋谷、松下の位置は、2.8m~3.3m。このときは6.5mと考える。 |
5 ボール速度(打球点~打球点間の平均)
平均時速 | 秒速 | 4mを飛ぶ時間 | 5mを飛ぶ時間 | 6mを飛ぶ時間 | ラリー/分 備考 |
120km | =33.3m | 0.12 | 0.15 | 0.18 | 極限的な強打 |
80km | =22.2m | 0.18 | 0.2 | 0.24 | 強打者の全身強打 |
60km | =16.7m | 0.24 | 0.3 | 0.36 | 前腕頂点強打した球が相手位置に達する時間 |
40km | =11.1m | 0.36 | 0.45 | ||
30km | =8.3m | 0.48 | 0.6 | 0.72 | ※1 |
20km | =5.6m | 0.7 | 0.9 | 1.07 |
※1 前陣プッシュ対前陣プッシュ(3m=インパクト間距離)で、ピッチ90の球速は、秒速9メートル。ピッチ80は秒速8メートル。福原愛ちゃんの強打。ツッツキは40往復/毎分、粘るカット打ちは50往復/毎分としてツッツキ(2.7m)の球速は、3.6メートル。相手が打ってから自分がツッツキ・ツッツキ打ち攻撃する打球点に達する時間は0.75秒。
(超高速ビデオを使っての測定によれば、伊東繁雄選手のスマッシュ初速は104km/h、福原愛ちゃんの初速は54km/hだった。93年12月末調べ。初速100km/hの球速は、4メートル飛ぶと約60km/hに減速する。平均時速は、約80km/hである。福原愛ちゃんのスマッシュは、平均時速40km/hで4メートル飛ぶ。)
6 普通の人の全身選択反応時間:0.35秒
(平均時速40km/hのボールを打っていたのでは、練習を積んだ相手には十分な時間を提供する。初速75km/hで、平均時速60km/hのボールを打って、初めて球速での主導権をとれる。)
7 感覚器(眼)からの刺激が脳に伝わり、判断がなされ、体に反応させるべく命令が電気的な速度で体の末端、(手足の先)までに達する速度:0.1秒
8 四つの判断要素(時系列標準発生順)
(1)ボールの進入方向(移動先位置判断と姿勢調整の判断のため)
(2)ボールの速度(持ち時間の判断、移動先位置の判断のため)
(3)ボールの回転(ラケット角度、振りの方向・サイズ・速度の調整のため)
(4)ボール軌跡の曲線(移動先位置調整、姿勢微調整、打球点の判断のため)
9 ボールの回転:ドライブ:173回転/秒
ドライブ対カットの回転比:同じ振りの能力で、カットを100とすれば、ドライブは144。
提唱-1
ショートの攻撃性は、世界のトッププラスではほとんどない。平均時速30キロの球なら、全身強打の反応時間は十分あるからだ。
相手が台から少し離れている場合で、両ハンドからの攻撃力を持っている場合、ショートよりはバックハンド強打やバックハンドスピードドライブを打とう。位置取りを、30cn前後に調整するだけで、ショートからバックハンド強打(前腕だけのでもよい=初速60~70キロ台が出れば。)に切り替えることが可能だ。
男女を問わず、グリップを問わない。0.35秒以内の相手持時間に追い込む打法で戦い続けられれば、高撃退攻撃(※原文ママ)の戦いで勝利することができる。ショートスイングで、ラケットのヘッドスピードを瞬間的に上げる技術的工夫と、筋力養成が必要になる。
提唱-2
卓球は、予測のスポーツである。日常生活から、予測能力を高める工夫を行うこと。
卓球は、人間能力の最高の反応速度を要求する超近代的なスポーツだ。日常生活から、早い反応、正確な反応を高める工夫をすること。
卓球は、複雑な戦術。技術を使う高級なゲームスポーツだ。練習内容は、単線から複線、そして乱戦へ高めること。また、単回転から複回転~乱回転へと高めること。また、単速度~複速度~乱速度へと高めること。また、単リズム~複リズム~乱リズムへと高めるとこと。
一度獲得した技術レベルにとどまる練習は、気持ちいいが進歩がない。
レベルをだんだん上げる練習は、心理的にも身体的にも苦しい。しかし、進歩が大きい。
今現在よりも高い目標を達成するためには、苦しくても、レベルの高い練習をすること。
身体的に苦しい場合は、練習時間の単位を短く。
心理的、技術的に難しい場合も同様。短期に集中し、それを繰り返すのが、効率が良い。
練習相手も、単から複、複から乱の判断、動き、技、を要求される練習方法を開発しよう。