相手のサーブミスに対して拍手するのは最低のマナー『日本の千人』より1994年 荻村伊智朗

(編注:「日本の千人」第3号より抜粋。「日本の千人」は荻村伊智朗が日本卓球協会 国際競争力向上委員会委員長のときに発行した雑誌)

相手のサーブミスに対して拍手するのは最低のマナー

ベンチの話が出ましたから、お願いをしたいんですけれども、相手がサーブミスをしたときに拍手をするケースが多くなっています。これはもうスポーツとしては、最低なマナーですからやめて欲しいです。

観客席にいる父兄の方々も相手がサーブミスしたときに、拍手をしている方がたくさんいます。

スポーツというのは、動物にはない。人間にしかない。それだけ、高度な生物というか、文化を持っている動物のやっていることで、文化そのものなんですが、サーブミスというのは、相手が出したもので、自分が出したボールの効果ではない。これに対して気違いみたいに喜ぶというのは、犬とか猫がやっていることと変わらないんです。

もう一つ、ネガティブな考え方では、相手のファインプレーに対する態度ですが、相手がファインプレーしたときには、無視するんですね。それで、卓球を終わりかけたとき、終わった時、終わってしばらく経った時、質問されることがよくあります。

「あなたの生涯で一番良い試合はどの試合でしたか?」

その時にどれだったかな、と思うけれど、どっかで優勝した試合とか、そんな簡単なものではなく、一番良い試合というのはなんだろうな、と考える。

やはり、良い試合の条件と言うものは、自分だけが良い当たりをした時ではない。相手も最後まで当たって、お互いに良いラリーがあって、その中で、自分が勝ったかもしれないし、負けたかもしれない。相手がいなければ、あるいは、相手が良い調子で最高のプレイをしなければ、本当に歴史に残るような良い勝負ができない。その中で自分もそのプレイを上回ったときに、歴史に残るような名勝負というのが、生まれるわけです。

大勢の人を感動させて、私も卓球をしてみようか、と思わせるような試合が生まれてくる。だから、相手がファインプレーをしたときに無視して、そして、相手の気持ちをできるだけ落とすようにして、良い試合は生まれない。そこを乗り越えて、相手が本当に良い試合をした場合は、うなずき、評価する。これは、とても辛いです。そうすれば、相手は調子づきますから、しかし、相手の中にスキも出るかもしれない。

いずれにしても、相手を評価する心境というのは、どういう心境になるのか、自分の気持ちをよく見てるとわかりますけれども、相手に対して評価してやれば、必ず自分の中に「よし、自分は、もっと上をやってやるぞ」という気持ちがムラムラと湧き上がってくる。

荻村とか木村とか村のついている人にだけそういう気持ちが起こるのではなくて、どんな名前の人でもそういう気持ちは必ず起こってくる。そうすると、自分も相手も調子が盛り上がっていって初めて歴史に残るような名勝負が生まれる。

ところが、相手がサーブミスしたら、喜んで、相手が良いプレイをしたら、お互いに無視しあって、というような試合をしていたのでは、名勝負とかは、生まれない。

相手の美技に拍手を送る心境で、最高のゲームができ、卓球はポジティブになる。

何十年も自分の青春を一生懸命卓球にかけてきて、「あなたの生涯の最高の勝負は、どの試合でしたか?」と、お父さん、お母さんと子供に聞かれたとき、何が言えるのか。

やっぱり卓球というのは、会場に行くとすごいよ。あの雰囲気は明るいよ。と言われると思うんです。この間も小学生の東アジアホープスのスポンサーを何千万か出してくれたある会社の社長に、もっとお仲間も誘って、卓球を応援してくれませんか、とお願いしたら、「だめですよ。荻村さん。卓球は暗くてだめです。私の仲間に言っても、ゴルフとか、テニスとかだったら、お金出しますけれど、卓球はいやだよ。と言われますよ」「なぜですか?」「第一、会場に行って、応援を見てごらんなさい」こう言われたんです。

その人は、実際に大阪の地方都市で年に何回か卓球の試合に出ているんです。卓球が好きですから。自分の体験から行っている。これは、他のスポーツに比べて、心がけが違う。相手のファインプレーもちゃんと認めてやって、それ以上のファインプレーを自分がしていこうという非常にポジティブな、見ていてすがすがしい。明るいような気持ちなんだ。

応援席だって、一生懸命自分のチームを応援するけれども、相手のファインプレーにも拍手をしている。みなさん方のプレイしている姿とか、態度にあらわれてくる。心が明るくて、ポジティブで、人をひきつけるようなそういうものにしてもらう。こういう気持ちを持っていれば、必ずプレーも良くなりますし、同じ時間の中でやることも違ってくる。

卓球で良い伝統といえば、審判が判定ミスした場合に、選手はわかっているのに、判定に文句を言わずに、必ず、選手の方で、埋め合わせをするんです。

例えば、片方がサーブミスをするなり、レシーブミスをするなりして、そういうことをする習慣があります。この前も、ワールドカップで渋谷選手が、審判にはわからなかった、カバー(エッジボール)を申し出て、それで、ジュースになって負けてしまったんですが、勝ち負けは自分の強さの表れなのですが、そこで、きれいな勝負をして勝利を追求してほしい。相手も高めながら、自分ももっと高めていく。そういうプレイヤーにぜひなってほしい。

世界で勝つことだけが目的ではないですね。優勝とか、世界で勝つとかいってますが、これは、あくまで、結果論です。

皆さん方が、毎日毎日、自己新記録を出していく。そのゴールに世界選手権が結果としてある、世界選手権で優勝できるような卓球選手になってほしい。みんな思っていますし、私も思っているんですが、必ず勝たなきゃいけないということではないんです。

勝敗は、時の運ですね。運が悪ければ勝てない、良ければ勝てる。そこまで、自分を持っていくことですね。その中にいろいろな考え方と、いろいろな技術があるということです。

1994年3月12日

国際競争力向上委員長 荻村伊智朗

(注:時代背景を考慮し原文のまま掲載しています)

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