基本をみなおすために
卓球選手の正月はその年にその選手が参加するであろう最大の競技会である、とはいうものの、1月といえばややオフシーズン的な意味からして、1年の計画をたてたり、基本に立ちかえって自分の卓球を見つめ直すのには良い季節といえます。
彼を知りおのれを知ることの大切さは孫子の言をまつまでもありませんが、まず手はじめはおのれをしる、ことから始めるべきでしょう。
おのれを知ることの要諦は、多種の要素の統一体としてのおのれの全体を大きく掴むことでしょう。そこに、ものごとにかかわっていく態度としてのマイペースが生まれます。
マイペースを守ること、これはもっと効果的な進歩を約束します。そのために全体を掴む。といっても、おのれは固定的な存在ではなく、絶えず刺激を受けて変化し、目的に向かって動いています。そうしたものであることを前提として掴むわけです。したがって、マイペースといっても、そのときそのときの勝手気まま、気分の移り変わりの通りに振舞うことではなく、正しい運動方向に自分を向かわせる意志に沿ったマイペースでなければなりません。意志の力を発揮しなければなりません。
全体は部分から成り立っています。群盲巨象を撫でるの轍を踏んではいけませんが、部分をしっかりと掘りさげて理解し、その個別の運動をも掌握することは全体を掴むための必要条件です。部分を掌握するための作業は、おのれを知る手はじめとしての資料づくり、といえましょう。
冬の間に、おのれに関する資料づくりをすすめたいと思います。
必要なデータをそろえよう
身体面資料の一例
1 身長
2 体重
3 胸囲
4 腹囲
5 くび囲
6 左右上腕囲
7 左右前腕囲
8 左右腕長
9 左右手頚囲
10 左右大腿囲
11 左右下腿囲
12 左右足頚囲
13 視力
14 運動中の普通脈拍数
15 最強運動直後の脈拍数
16 15から14への所要時間
17 どのくらいの脈拍数や呼吸になった運動ミスが起きるか?(ラリーとラリーとの間の適当インタバルを掴むための資料)
18 適正な爪の伸び具合
19 前髪の処理はどうしているか
精神面資料の一例
1 対外試合と練習ゲームとの態度の違い
2 対外試合と練習ゲームとのラリー間のインターバルの違い
3 対外試合と練習ゲームとのサービスの間のとりかたの違い
4 対外試合と練習ゲームとの相手にボールを返す位置や動作の違い
5 基本練習とゲームとの態度の違い
6 他の人の精神集中を乱す態度や言動はないか
7 練習や試合を始める前にチェックする項目をちゃんと持っているか。チェック実施しているか。
技術面資料の一例
用具についての正しい把握
1 ラケットの重さ、固さ、厚さ、材質、はずみ、寿命。
2 ラバーの重さ、固さ、厚さ、はずみ、まさつ力、寿命。
3 ラケットでネットの高さを正確に計れる
4 くつのひもは何日ぐらいでとりかえるか
5 試合で一番動きやすい靴の底の状態はどのくらいか。その状態にあるものを試合用としてとってあるか。
6 ロードワーク用の厚底のスポンジの靴をもっているか。
7 スペアラケットは2~3本はもっているか。
8 ラケットケースの乾燥剤を定期的に新しくしているか。
9 ユニフォームはきゅうくつになっていないか。
10 靴の底のヘりかたは正しいか。
基本技術についての正しい把握
1 サービスを出すときの左右の足の位置はエンドラインとサイドラインからそれぞれ何cmのところか。
2 目をつむっても得意のサービスが出せるか。
3 試合で使うサービスは、難度の80%どまりで十分通用するだけの威力をもっているか。いざとなれば、もっとギリギリの狙いや難しい動作で出せるか。
4 レシーブの位置は、サービスの球の打たれる位置がどこなら、どこにする、と標準位置があるか。
5 フォアハンド対フォアハンドでクロスの打ち合いをしているとき、自分のラケットはどのような軌跡で、何cm動いて一回の振りに(基本姿勢から基本姿勢まで)なっているか。
6 フォア前のサービスに対するレシーブでのラケットの動きの軌跡と運動距離。
7 フィニッシュから基本姿勢に移るまで、どのくらいの時間を使っているか。
こうしたデータをたんねんに集め、選手は一冊の本を自分に関して著すべきです。1カ月かかってもよいと思います。あとの11カ月はこうした資料を活用することにより、12カ月分にも、24カ月分にも活きることでしょう。
1972年1月
荻村伊智朗
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