『日本の強化再建はおそすぎたか?』『進歩という言葉』1970年12月 卓球ジャーナル「発行人から」より

日本の強化再建はおそすぎたか?

ものごとには、すべて実行のタイミングがあります。たとえば私たちの卓球では、どんなによい振りをしていても、ボールがそこにあるうちに打たなければ良い結果は得られません。

日本はさる8月、強化本部の指導陣を木村氏以下の若手中心に改ため、ここ数年の沈滞ムードからの脱出をはかりました。

木村氏以下の指導陣は、万人が認めざるを得ない誠心誠意の努力を傾けて指導に当っています。

しかも彼等の能力は、実際には若手という名にあらわされる未熟なものではなく、熟練という意味でのべテランそのものです。

11年以来、すなわち中国の新鋭選手台頭の嵐がまきおこって以来、激動の国際的潮流の中で彼らが自らの身体を実験台とし、自らの五官を通じて学びとった体験の数々は、卓球人はもとより他のあらゆるスポーツ種目の同世代の人々の中にも見出せないほど貴重な卓球界の財産です。

かけがえのない若い日々を、次代の代表的選手の訓練や育成を通じて、卓球界に還元しようとする奉仕精神には頭が下ります。

しかしながら、これらの人々の能力をもってしても、さる11月上旬に行なわれたユーゴスラビアの国際大会での成績は、勝利という側面だけを重視した場合悪い結果でした。このことについては、1967年以来頂点の伸びがとまり、ベテランは選手生活全般にわたって精彩を欠いていた数年をふり返ってみれば当然という批判が多くきかれます。

もちろん、8月以来、木村氏以下はそうした精神面の作風を主として改善し、しっかりした精神的主柱をうちたて、その周囲に戦術・技術面の強化を展開する、という強化方針でのぞみ中心的選手もこれによく協力しています。

その結果、かなりの立ち直りはみせているものの、ミュンヘン大会(1969年)で負けたボストワ選手(チェコ)に小和田選手が勝った以外は、表面的には成果なしのユーゴ大会の結果でした。

もちろん今回の遠正の主たる目的は、各国との交流大会で、これでは日本は、スウェーデン・ソ連・イングランド・西独・ヨーロッパ選抜などに全勝の成績を飾っています。

「進歩」という言葉

当面の卓球界の傾向は、スビードとパワーです。進歩という言葉は、この傾向にそっているかで判定して使わなければなりません。

これは特に卓球界にかぎったことではなく、スポーツ界全般の傾向です。

その中で卓球は、戦術技術の複雑化が併行しています。だがいかなる多彩な戦術や技術も真にパワフルな一打の前にはモロいものです。

今回遠征した日本チームに対して欧州勢は健闘しました。これは欧州が進歩したためでしょうか。

私の意見を申しあげるならば、欧州は日本の長谷川、伊藤型のドライブ主戦型についてはシュルベックなどに代表されるドライプ型が出現し、大いになれてきました。ですから日本には健闘し、戦いぶりも進歩したようにみえるでしょう。

それだけに帰国した選手団の表情も明るく、二上団長の報告にもあったように、強行日程をすべてこなしたのに成果は充分だったといえそうです。

同じ時期に、中国が少しあとでスカンジナビア選手権大会に出場します。この号がでるときにはその結果が報じられているでしょう。

中国はご承知のように、ここ数年文化大革命に運動選手が積極的に参加していたため、国際交流を休んでいました。その間、世界の卓球界は中国を忘れ、いるものだけの勝敗に一喜一憂していた感があります。これでは、世界選手権大会という名のタイトルだけを重視して、競技内容や選手の風格をみない、というそしりを受けてもしかたがありません。

文革後の中国選手たちを、この春以来、数回の友好模範演技を通じてその現状をみてきましたが、文化大革命にいそがしかったわりあいには、技術的にも体力的にも数年前の力強い水準を保っています。しかも、一流選手を含めて中国の関係者の話は、いつも謙虚であり、自分達の国際交流が勝利第一主義でもなく、個人的な功名主義でもないことを繰り返し、淡々とした口調で語っています。

おそらく中国はスウェーデンに集まった各国選手に対して日本がユーゴでみせたよりは数段上廻る成績をあげるでしょうが、技術や強さ以上に、勝敗を超えたスポーツ精神のすばらしさを中国チームの一挙一動がいっそう鋭く観衆に印象づけることでしょう。

このような風格については、木村指導陣も同じ方向に努力しているようにみえます。こうした努力が勝利への努力と並行して続けられるかぎり、強化再建はおそすぎたとはまだ断言できませんが、卒直にいってたいへんでしょう。

来春の名古屋における第31回世界選手権大会では、日中の両国選手がそれぞれの精神的風土のよさを発揮して、はげしい勝負の卓球を通じてすばらしい国際的友好の実をあげることを望みたいものです。

しかし、スビードとパワーという面、卓球そのものの進歩という面から考えて、スマッシュを打たないアルセア選手の優勝に終ったューゴ大会の内容を点検しても、欧州の卓球が全般に進歩したとはいえないように思えます。

むしろ、欧州の卓球は変化した、といえないでしょうか。そして今回の変化は、ここ数年来戦術的にも技術的にもさしたる変化のないどころか退歩ぎみだった日本に対しては有効に働いた、といえるでしょう。

しかし、必らず、近い将来に欧州は新らしい変化を余儀なくされるでしょう。アルセアよりはベンクソンやパーソン・クランパ・ボストワなどの若手強攻派に内外の注目が集まっているのは、こうした傾向を感知してのことだとおもいます。

1970.12

荻村伊智朗

 

※卓球王国が運営する「王国e Book」では卓球ジャーナルの電子書籍を購入することができます。

王国e Bookはこちら。

https://world-tt.com/blog/news/ec/ebook?sale_sub_category=F

関連記事一覧

  1. 1988年スピーチ
  2. 17歳の世界チャンピオン
  3. 卓球技術の習得1971-9
  4. スピーチ
  5. 1970.9.機能的な卓球体操
  6. ITTFの1971-10

Translation

最近の記事

  1. 1979.10.技(わざ)の深み
  2. 1979.9.雑誌の功罪
  3. 1979.6.チャンスをつかむ力
  4. 1979.5.得意技
PAGE TOP