『持つべきものは友』OGIMURA ACTIVITY REPORT1991年12月号より抜粋

持つべきものは友

国際卓球連盟会長:荻村伊智朗

「世の中は、棄てる神あれば拾う神あり」というが、持つべきものは友人である。卓球の世界選手権大会も、おかげさまで、いろいろな話題をもたらしながら進行している。

一昨年、ベルリンの壁が崩れた第一報を聞いたとき、日本卓球協会は常務理事会を開いている最中だった。このとき、国際委員の平島祥男氏が手を挙げ、「次は南北朝鮮だ」といった。「中国、台湾と東西ドイツと合わせ、三セットを世界選手権大会に招くことを実現しよう」と私に気合いを入れた。彼はまた、「140もの加盟国があれば、気質もいろいろ。法律的な相談役も必要だ」ともアドバイスしてくれた。思い当たることも多く、先見性のある友人を持った幸せを感じている。

卓球がひところネクラだとかダサイとか、いわれのない那揄を受けた時期があった。この時立ち上がってくれてマスコミで応援演説をしてくれた連中がいる。アートディレクターの浅葉克己、林家こん平、三遊亭小遊三、夏木ゆたか、など、テレビで活躍している人達である。

東京ドームの2倍もある幕張メッセを全部2週間借りきり、18億円の予算規模、百カ国参加、秋篠宮殿下の名誉総裁ご就任、25万人の来訪者と、単一競技大会として日本史上最大という華やかな世界選手権大会の演出には、こうした友人たちの知恵も随所に活かさせていただいた。

 

秋篠宮様も、中学時代からの卓球を通じて、お付き合いをさせていただいている。83年東京世界選手権大会の折りに差し上げたマスコット人形をずっと黄色のフォルクスワーゲンのリアウィンドウの片隅に置いていて下さっていた。目白の交差点で信号待ちの間、紀子さまにプロポーズされたときの立ち会い人は卓球人形だった!?

 

全日空の行事で知り合って以来意気投合した神津善行さんには、サマランチIOC会長をお迎えしての閉会セレモニーで、東京の各オーケストラの精鋭が参加するジャパン・オーケストラ統一チームを作っていただいた。朝鮮、ドイツ、イェーメンなどが統一チームで参加することを祝い、中国や南アフリカなどがやがて大同団結して統一チームによる参加が実現することを祈っての企画である。

統ーチームといえば、大会の大きな話題の一つは南北朝鮮統一チームの参加であった。春秋三国の昔、魏の曹操がその兄に難題を吹っかけて滅ぼしたことがある。兄が吟った詩に「豆を豆殻で煮る。こんな悲しいことがあろうか」という一節がある。三十有余年の卓球国際大会で、何十回となく、あの詩を思い出して胸をつまされる南北の兄弟相鬩(せめ)ぐ悲しい場面に遭遇した。

私が仲立ちらしいことができたのは、南北双方の友人がいたからである。長い付き合いの中で信頼感が育ち、「あいつの言うことなら」となるまでに十年、二十年の歳月が流れた。サマランチという先輩の友情や助言が、南北双方からの私へのクレディットにもなった。

持つべきものは友人である。陰で支えてくれる大勢の人の支えがなければ、世界的な出来事をなしとげることはできない。

 

※編注:OGIMURA ACTIVITY REPORT1991年12月号より抜粋。『OGIMURA ACTIVITY REPORT』は荻村伊智朗が国際卓球連盟会長時代(1987年~1994年)に自身の支援者たちに送った活動報告

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