『友好第一とAA大会の成功』1971年11月 卓球ジャーナル「発行人から」より

友好第一とAA大会の成功

政治とスポーツ

私の初心者時代によく読んだ本に今孝さんの「卓球」がある。戦争中に書かれた本であるためか、当時の国粋主義、軍国主義の風潮に外来スポーツである卓球をいかにしてマッチさせて訴えていくかに苦心のあとが見受けられる内容もあった。外来スポーツは禁止されたり、ルールや用語を変えることを強制されていた時代だったのです。

その今さんは戦争に行き、選手生活を全うすることはできませんでした。今さんは帰国されてから肺炎で亡くなられましたが、終戦直後の医薬の不備な時代だったため、失わなくてもよい命を失ったのではないか、という声もあります。

戦争では多くの人命が失われたが、多くの名選手も命を落としました。いまで言えば、長谷川君や田阪君が出征し、戦場で死傷するようなことが、卓球界だけでなく、野球でも陸上でも水泳でもあったのです。それもつい20年ほど前のことで、40才以上の人達には実に身近な話なのです。

その先輩達が終戦で復員すると、まっさきに卓球場にかけつけ、卓球部を組織し、卓球協会を再建した、とききます。

このとき、これらのスポーツマンたちは平和の貴重さをどのように考え、どのように噛みしめたでしょうか。その頃卓球をやっていなかった私にも、現在に時と場所を移してみれば、わかる気持がします。

終戦になると、それまで禁止されていた外来スポーツは解禁され、占領軍の影響もあって野球などは凄いプームをまきおこしました。

一方、日本古来の武術やスポーツは古領政策の一貫としてきびしい取り扱いを受けました。柔道、剣道、なぎなた、などは一時的に禁止され大相撲もボクシングのようなパンツをはかすだのなんだのと論議が交わされていました。調査をしたわけではないので断定的なことは言えませんが、大部分の学校の剣道場は卓球場に変わってしまったのではないでしょうか。

剣道場は板張りで狭く、天井も低く、床にはスプリングが入っていたりして、卓球以外の他の競技用に転用しにくいものだったからです。

日本歴史上最大の規模の戦闘と敗残を通して生まれたこうしたスポーツ種目の栄枯盛袞や、スポーツマンの悲哀や歓喜は、どれ一つをとってみても政治と無関係ではあり得ませんでした。

それなのに、政治は一部の権力者の手に握られ、スポーツマンを含めた国民は一銭五厘の切手をはった召集令状一枚で集められ、戦場へ出て行きました。私は小学校五年のとき最も尊敬していた松本出身の洞沢という中大に籍を置く若い先生が出征するのを日の丸の旗を手に井ノ頭公園まで見送りましたが、華やいだムードとは裏腹に不覚にも涙がこぼれてしかたがなかったのです。そして、洞沢先生も戦死しました。

「国民は政治に関係ない」という言葉はいまでは通用しません。

しかし、「スポーツマンは政治に関係ない」はどうでしょうか。この言葉が、広くは国際政治の分野でも、狭くは卓球協会や卓球部の分野でも、もし通用するとしたら、私達の属している社会は政治的に立ち遅れた社会だといわざるを得ません。

人類史上最初にして最大の友好模範試合

国際的なスポーツマンの集いには国際的な政治視野が必要です。中国と日本との呼びかけによって51カ国の参加を得て、北京で71年11月に開催されたAA卓球友好招待試合はこうした観点から見るべきもので、ただ単に中国が国際卓球界に復帰した記念の大会、というような観点でみたのでは、その意味を十分に理解したものとはいえないと思います。

日本は二十年来、平和と経済的繁栄を享受してきましたが、世界にはロクにスポーツもできないどころか、飢餓と戦争のために死にかけている人達が、飛行機で数時間のところに多勢いるわけです。

中国がそうした国際政治の現状を無視した単なる招待選手権大会的なものをやるはずがありません。ご存知のように中国は、国連におけるその正当な議席を回復したあと、「大多数の中小国の立場に立つ」と表明しています。

「友好」の追求にはたしかにいろいろな方法があります。このたび大成功を収めたAA大会は、ーつの新しい国際的な卓球の集いを従来からある“試合”という形式の一部を借りて行なった「友好第一、試合第二」主義の人類史上最初にして最大の友好模範試合であった、と私はみています。現在の国際政治にはそうした試みをすべきタイミングがあったのです。

中国と協力し、既存の卓球選手権大会のパターンを破って新しい友好親善のための模範的な試合のスタイルを確立するためには、まだ幾多の困難があります。とくに“政治とスポーツ”“友好と勝負”についての理解と認識を日本のスポーツマンは深めなければならないと思います。

1971年11月

荻村伊智朗

 

友好第一と1971-11

 

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