得点する方法から伸ばせ
戦術的研究が目的のワンサイド練習においては、ボール・コントロールもボールの威力の色々な要素(スピード、スピン、プレイスメント)も、凡て用途、目的によって価値がその時々で変化すると考えた方がよいだろう。
すなわち、相手のエラーが出るまで粘る打法であれ、スピード(速度)、スピン(回転)を主とする打法であれ、プレイスメント(送球場所の随意性)を主とする打法であれ、それがどのくらい確実に1ポイント(得点)に結びつくかが問題なのだ。
どんなに大きな危険をおかした得点でも、1度に1点しか取れないことを忘れないように。
現在、又は将来の自分のゲームの中で、得点する率の最も高い打法からまず研究してゆくのが順序である。
コーチによっては欠点ばかり指摘する人がいるが、それより先に長所を指摘してやるようにしよう。攻撃であれ、守備であれ、長所が将来の得点源となるのだから。
かりにここにある徹底的な攻撃選手がいるとしよう。彼は凡てのラリーを自分の1発決めの決定球で終らせるプレイをするとする。そうすると彼の決定球は51%の得点率を持てばよい。なぜならそれで試合に100%勝てるからだ。
もし彼の決定球が相手コートに入れば100%得点する絶対的な威力を持っているとすれば、彼の決定球のボール・コントロール(命中率)は51%あれば良い。
田中選手と私はスマッシュをスマッシュし合う練習をもって徹底的な攻撃の練習にした。もちろんラリーは少ししか続かないし、初めはクロス打ちに限られたが、最大限のスピード感覚を会得するには絶好の練習だった。
仮りにここに徹底的な守備選手がいるとする。彼は、凡てのラリーに終始点を打つ主導権を相手に渡す。彼の打球の威力は、相手の決定球の命中率を49%にさせるだけのものであればよい。何故なら、それで試合を100%勝てるからだ。
しかし相手の決定球が放たれる迄、自分の打球のボール・コントロールは100%でなければならない。
仮りにここに中庸をゆく選手がいるとしよう。彼は決定打の機会を殆ど半分の49%を相手に与え、51%を自分がとる。
彼の決定打は100%のコントロールを持ち、100%の得点能力を持たねばならない。何故なら、それでないと試合に勝つわけにはいかないからだ。
以上三つの例はそれぞれ実現不可能なほど極端であるかもしれない。しかし、凡ての選手がこのいずれかに近いプレーをしているのである。
例えばデビュー当時の藤井、中、世界選手権初優勝当時の田中、荻村等は最初の例に近いプレーをしたし、イングランドのバーグマンやルーマニアのロゼアヌが全く重大なゲームをする際には、第2の例に近いプレーをしたし、チェコのヴァニヤ、ハンガリーのバルナ(英国に帰化)、シド、日本の富田等は第3の例に近いプレイをしばしばして来た。
どの打法を中心としたゲームでも最高の程度のものは甲乙なく良い。そしてどの方法を選ぼうと自分の自由であり、選んだ責任は自分が持たなければならない。
仮りにコーチャーの言う通りの方法で練習しなくてはならないとしても、そういう環境を選んだのは自分であり、いやなら選ばないこともできるのだから、責任は全て自分が持たなければならない。
自分の個性に合い、自分の将来行おうとするプレイのためになる練習だったら、たとえそれが他人の目にはどれほど奇異に見えたとしても、誠意を持って行うのがよいし、コーチャーもこれに協力してやってほしい。
1963年:荻村伊智朗
※協力:株式会社タマス(バラフライ/卓球レポート)