『卓球技術の習得順序』1971年9月 卓球ジャーナル「発行人から」より

卓球技術の習得順序

先日の全国中学生大会の最終日のことですが、熱心な先生方と名古屋大会代表選手達との話合いがありました。

「あなただったら、まったくの初心者に対して、まず何を教えますか。次には何を教えますか。」という問いかけに、代表級の選手達の答は、”素振り””フォアハンド””フットワーク””サービス”などが多かったようでした。”体力トレーニング”も多くありました。

「噛み合わないナ」と、先生方も感じ、選手達も感じているようすが私には感じられました。

先生方は、中学3年間でどのように初心者を育てるか、に考えがいっていますし、選手達は、いまの自分達になるまでの5年、10年のスタートとして、何をやったらよいか、を考えているのだからでしょう。

先生方にとっては、「一流選手とはいっても初心者のコーチはしたことがないから」といったアキラメの気持が働かなかった、とはいいきれません。「私達が教えるのは、まったく何もできない子なんですよ」という念を押す声も再三聞かれました。

たしかに、第一線級の選手の場合、初心者の指導はやったことがないに等しいのですから、「高いところで話をしすぎる」という声は素直に受けとれました。

その日の会が終ってから、私は、ふとあることに気がつきました。なんでもないことなのですが、「一線級の選手だって、初心者だったんだ」という事実です。

この10年間、汗みどろの努力をしてきました。彼らが自分のきた道を振り返ってみたら、技術的には反省以外の何ものもないのではないでしょうか。少なくとも、”自分が初心者のときに、こういう考え方ができたらなあ、こういう練習をやったらなあ”と、数多く思い当らない人はいないのではないでしようか。

私の場合なども、まさに試行錯誤の連続でした。そうした初心者としての、しかも”人一倍熱心な初心者”としての経験を踏まえて、一線級の選手は発言していた、とみる場合、先生方にも、もう一度、彼らの”次元の高すぎる発言”を点検してみていただけるものとおもいます。

たとえば、ひときわ印象に残ったやりとりにこんなのがありました。

先生方のうちのある人が、さらにつっこんで、「カットマンだったら、まずツッツキからですか、それともバックカットからですか、フォアカットからですか、あなただったら何から教えますか?」

「みんなです。」

「みんな一度には教えられません。やはり何かをある程度できるまで教えねばなりません。何から教えたらよいでしようか。」

「みんなです。みんな一緒に教えたらよいと思います。私は片一方だけを徹底してやりましたが、そのために切りかえがいまだに苦労します。あとで困らないためにも、最初から全部教えるのがよい、と思います。一つの技術をいくらつっこんでも完成はない、と思います。だれでも「ある程度」、で他の技術へ移ります。それなら、「ある程度」の水準を少し下げて、最初からいろいろな技術を練習した方がよい、と思います」

両者が学び合わねばならない、と感じると同時に、私達は何回でも「卓球各技の関係」について、また「習得の順序」について考えなければならない、と感じました。

今孝氏、福士敏光氏らの著書にもこれらの間題がとりあげられています。私も数年前に、日卓協の強化対策をやっていた当時に「並立」の考え方について問題提起をいたしました。

52年、61年に続き、71年は戦後3度目の世界卓球界の転換期になりつつあります。もう一度、卓球技術習得の順序や卓球各技の関係について考えを堀りさげる時期にきたような気のする昨今です。

1971年9月

荻村伊智朗

卓球技術の習得1971-9

 

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