『新らしいシーズンに寄す』1976年4月 卓球ジャーナル「発行人から」より-荻村伊智朗

新らしいシーズンに寄す

「少年老い易く、学成り難し

一寸の光陰、軽んずべからず

いまだ覚めず、池塘春草の夢

階前の悟葉、すでに秋声」

 

私の少年時代の愛吟詩である。

隣家に琵琶と詩吟の師匠がおられた。前の小僧、習わぬ経を読む、というが、私も好きな詩に節をつけることを覚えた。

わかりやすい詩なので解説の必要はないと思う。私はどちらかというと空想にふけりがちなのんびりした性格であったので、池塘春草の夢が覚めないでいるうちにもう青ぎりの葉が秋をつげている、という経験は学業の面ではたくさん経験した。

だから、そう、まさにだからというわけで高校になってからはじめた卓球だけはぜったいにこの詩のようにハッとさせられることのないように頑張ろう、と決心した。

学成り難し、というのを、卓球には少しピンとしない、というよりは学業を少なからずおろそかにしする後めたさを想い起こさせちれるので、業成りがたし、とうたい変えるときもあった。

卓球については刻苦勉励型で自分の能力の頂点まで一気に突っ走ってゆけたのも、自分の弱点を知って反省の気持ちのではじめたときに卓球を始めたせいかもしれない。そういう意味で、おくれて卓球をはじめた(高校1年の9月から)のも、マイナス面ばかりではなかった。

人はみな、それぞれに性格が違い個性がある。個性には強い面と弱い面がある。強い面をのばすことと弱い面をおさえることとは大いに大切である。

私は“凝り性”だ。凝り性というのは特徴であり個性である。決して特長とか長所ではない。強い面を発揮すれば、堀り下げて、仕事に深みがでる。しかし、いくつものことに凝ったらとても時間が足りなくなる。私が卓球の他の勝負事にはあまり“つき合……”をしなかったので変っている、といわれた時期もあったが、私は、例えばマージャンなどという面。そうのよなことをやりはじめたら必ず凝ってしまうことを知っていたから避けたというか、逃げたのである。

新らしい学期に向って決意を新たな選手諸君としても似たようなものであろう。学業第一という観点からみれば、余暇時間はすべて予習と復習につかい、健康管理のために一定時間スポーツをやるのが普通である。という立場からみれば、スポーツを選手生活としてやる諸君は、すでに二兎を追っているのである。

余暇に学業だけを6時間、7時問とやっている人たちにかなうはずがない。だが、そこは人間、スポーツをやっていない人が必ずしも時間を有効につかっている人ばかりというとそうではない。そこにスポーツの選手にも学業で落伍しないどころか立派にやっていけるチャンスがある。受験というのは“人を比べられる”評価方法だからだ。

立派にやれるためには、徹底的にムダな時間を省くことである。

ムダの中には交友関係のムダもある。低めあい、ゆるめあう友人関係であってはならない。“気があう”ことだけに感激していてはならない。その結果、どのような行動となって学業や卓球にプラスしたのか、その結果どれだけ自分も啓発されて伸びたのか、が友人関係を評価する基準の主なものである。

できることなら友人を“共に刻苦し、努力する仲間”の中に求めたい。“卓球の仲間は単なるライバルで、心をゆるす仲は他にいる”ということではないほうが望ましい。

縁あって共に一つのクラブで刻苦しせっさたくましあう仲間との友人関係をうたった詩がある。私が大学の卓球部に入部したときの新入部員の歓迎会の席上うたった詩である。

 

同朋、友あり、おのずから相親しむ

紫扇暁に出ずれば、霜雪の如く

君は川流を汲め、我はたきぎを拾わん

 

私のうたいかたのせいか“だから俺は詩吟は嫌いだ。ねむくなる”。などと酷評する先輩も中にはいたが、意は通じたようであった。

 

諸君の今シーズンは決心しだい、実行しだいだ。時間のムダのない選手生活をおくり、高めあう仲間となり、最高の努力を続けること自体が、立派なスポーツである。

“成る”とは、そのスポーツ活動をやり逐げふり返して悔めないことであろう。

1976年4月

荻村伊智朗

 

※原文のまま掲載しています

1976.4.新しいシーズンに寄す

 

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