『卓球とオリムピック』1976年7月 卓球ジャーナル「発行人から」より-荻村伊智朗

卓球とオリムピック

モントリオールでのオリムピックでは、世界新記録が数多く生まれた。また、体操では世界新記録という呼び名はないようだが、空前の点というスコアが出た。このように、やはり世界のスポーツ界は前進しているという印象が非常に強い大会であった。

そういう中でも、伸びているスポーツ、伸びている種目、あるいは、ある種目について伸びている国、というものがある。逆に、伸びていない種目、伸びていない国というものもある。これを比較してみるとちょっとした特徴がある。それは、伸びている国、あるいは伸びている種目では、常に新らしい何かが起きている。たとえば、新しい技に人の名前をつけての○○飛び、新月面宙返り、といった新語が生まれる。

これはなにも言葉だけが新しいのではなく、今までにない新しいものが生まれたからこそ新しい名前がつく。泳法にしても、トレーニング法にしてもいろいろと話題をよぶ。

もちろん筋肉増強剤の話題のように、首をかしげられる問題もあるが、東独女子の活躍にしても、やっかみ半分にばかりみるのは間違いであろう。

私たちが世界で連戦連勝したときも、「興奮剤を使用しているのではないか。そうでなければあんなに集中した心境になれるはずはない」などと新聞に書きたてられたことがあった。

敗者のひがみ、というものは恐ろしいもので、勝者がどれだけのきびしいトレーニングをしたかには目をつぶりたがるものだ。

いずれにせよ、本質的な問題つまり、技術の問題や、訓練法の問題で、常に新しい話題を提供し続けている国、チームは伸びる。逆に、伸びていないチームには新しい話題がない。

ということは、かりに間違いのないとされている方法でも、新しく突っ込んで考える姿勢、新しさを追求していく姿勢が伸びるために必要である、ということだ。

そういう観点から卓球についてもいろいろと研究してみることが必要であろう。

 

人間の技術の歴史というものは、常に自然環境を征服して、自分の力でコントロールしていくという歴史だ。

最近中国で170万年前の原人(猿人)が火を使っていたという遺跡発掘の調査結果が発表された。人類は生活に困らないようにもともと熱帯地方に住んでいた。それが、火を使う技術、狩りをする技術、武器を作る技術などの発展とともに自然条件のきびしい北部へ移動していった。

人間の技術の歴史が自然を克服する歴史であるように、スポーツの技術の歴史もそうである。ぜったいに物理的・生理的な壁であると考えられているものを努力、工夫、研究で克服していく。これがスポーツの技術向上の歴史である。こういう努力を繰り返さないスポーツや、すでに行なわれたことだけを行なっているスポーツは、やつばり国際競技では勝てない。卓球がそうならないためにも次のことを考えてみよう。

たとえばサービスの問題。

投げ上げサービスや、しゃがみこみサービスなど、女子でこなしている選手は日本にはきわめて少ない。なぜ中国の選手にはできて、日本の選手にはできないのか?ぶっつけサービスが禁止されれば、ラケットの速さにプラスアルファの要素を加えて、回転やスピードをボールに与えるには投げ上げしかない。2メートルも落下してきたときの衝撃は掌で受けてみたらわかるが、かなり大きい。

たとえば異質ラケットの問題

小柄で器用なタイプの選手にとっては活路のはずである。柔よく剛を制すとは柔道の金言だが、卓球のように技の要素が強いスポーツには、この金言は生きることができる。そうでなければ、柔道のように卓球も体重別とか、身長別を採用するようになろう。ペンホルダー選手の裏面使用などは日本の選手でこなす人のパーセンテージが低い。

練習量

どうしてある時代には卓球の選手は、365日練習するのが当り前だったのに、いまは当り前ではなくなったのか?どうして1967まではサーキットトレーニング、ランニング、ウェイトトレーニングを含むハードトレーニングが常識だった第一線の選手が、いまは見るからにトレーニング不十分と思わせるからだつきの選手が多くなったのか?

卓球が“伸びない種目”入りをする前に、私たちが考えなければならないことが多いようである。

1976年7月

荻村伊智朗

1976.7.卓球とオリムピック.2

 

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