『日本は卓球王国ではない?』1976年10月 卓球ジャーナル「発行人から」より-荻村伊智朗

日本は卓球王国ではない?

先日来日した国際卓球連盟会長、ロイ・エバンス氏は、1925年、15才のときにウェールズのカージフ市で卓球を初めた。世界選手権大会にも同国代表として数回参加した。世界選手権大会の参加者有志で組織しているスウェスリングクラブインターナショナルのメンバーでもある。

彼が23才のとき、現在のナンシー夫人(当時のウェールズチャンピオン)と結婚し、以後、第2次世界大戦直前まで現役、兼役員として同国の卓球の発展に貢献し、第2次大戦以後は、国際卓球連盟の専務理事を経て、1967年国際卓球連盟の会長に就任し、現在に至っている。

その間にあっても、カージフ市のリーグ戦の会場の確保、プログラムの作成、組合せなど細かい仕事にも携わり地に足のついた役員活動を続けている。

ロイ・エバンス氏によると、現在カージフの人口が30万人、そのうち、卓球のクラブは100余りで選手は1,200~1,300人、このクラブは10部に分れ、それぞれの部が総当りのリーグ戦を年に2回行ない、昇格、降格をくり返している。

リーグ戦はフランチャイズ方式で行なうため、それぞれがお互いに相手のクラブを年に1回づつ訪問する形式である。

リーグ戦の他に、250万人のウェールズ国内各市の選抜チーム同士の市対抗リーグ戦がシーズン中(9月から4月までの約8カ月)は毎週土曜日開かれる。

この他、イングランド(15州)とウェールズ(5州)の州対抗選抜チームリーグ戦が月に1回(日曜日)づつ開かれる。これも春秋2回相互訪問をする。

この他に、チーム対抗のトーナメント、個人トーナメント、個人ハンディキャップトーナメントなどがあり、ほとんどの土曜日と日曜日が試合に使われている。

ウェールズとイングランドは週休2回制が普及していて、シーズン中の土曜日と日曜日はこのように卓球に使われることが多い。

ウェールズの総登録人口は、250万人の総人口に対して、5,000人余りであり、ひとりひとりが協会のライセンスカードを持ち、協会はひとりひとりから約300円の登録料を徴収している。

イングランドの人口は約4,000万人で、協会がライセンスカードを発行している登録人口は25万人ということである。

ヨーロッパはどこへいってもこのように競技人口を組織していて10万人当り組織している競技人口は300人~600人といったところである。

大陸へいくと西ドイツの場合、人口約8,000万人弱で、ライセンスカードを持っている登録人口は55万人、有給(フルタイム)の事務局員は全国で23人、フルタイムの有給のコーチは全国で15人程度ということである。(この部分は、メキシコ市を訪れたヨーロッパ卓球連盟会長兼西ドイツ卓球連盟理事長のフィラーク氏による。

どちらが幸せ

エバンス氏はこう話した後、「ところで日本卓球協会の選手人口は?」と質問してきた。

日本卓球協会は今年6月に財団法人となり、文部省の要請に応じて現在各地区別に登録選手数を集計して文部省に報告するため日本卓球協会が調査中である。だがおそらく「東京で5,000人前後、全国で3万人から5万人程度ではないかと思う。」と答えた。

「日本の総人口は1億人、日本のGNPは世界2位、日本の卓球の強さは世界のトップクラス。ウェールズの卓球の強さは世界のビリクラス。ところが人口比で考えれば、卓球協会に所属している選手はウェールズもイングランドも日本の10倍。普及度がとても高くて卓球はとても弱いウェールズと、卓球がとても強くて普及度が低い日本と、どちらの卓球協会が幸せかな。」といってエバンス氏は笑った。

財政は国か、自前か、スポンサーか

日本の卓球だけでなく、日本のスポーツは、ほとんどが輸入スポーツである。スポーツが日本に輸入された明治の初年はスポーツはごく一部の人達の間で行なわれた。その人達は身銭をきって(日本におけるアマチュア理念の重要な要素だ)スポーツを行なった。

現在でもスポーツ関係者や財界、文部省、大蔵省などの監督官庁の人たち、政治家などには、「スポーツは好きな人がかってにやるもので理解のある人が応援すればよい。」という考え方が根強い。

いっぽう世界の現状は、「スポーツは社会の財産のひとつであり、国が国民のためにお金を使ってでもスポーツを保護育成すべきである。」という一種の社会主義的な政策が浸透してきている。

西ヨーロッパのいわゆる自由主義国家の中でも、こうした社会主義的な政策は強さを増していく。各競技団体のもっている登録人口に対して比例配分で補助金を出す。といった政策をとる政府が多くなってきたのはこの例である。

これはスポーツの大衆化という現状を踏まえている現実的な政策ともいえる。また、組織は大衆を基盤としているのであって、篤志家を基盤にするのではないということでもある。

日本の卓球は潜在力からいえば、50万人の会員を動員して普及活動、強化活動、各種事業を行なう力がある。西欧の組織力を日本にあてはめた場合には、およそ年間3億円~4億円の財政規模の団体であり、有給の事務局員が15人、有給のコーチも15人程度は抱えられる潜在力をもっている。

しかしながら現実は予算規模は年間5,000万円、有給の事務局員は3人、有給のコーチはなし、といった現状である。

エバンス氏は、「組織力は弱くとも競技力は強い、というのは日本の卓球界の志向がわれわれとはちがうからなのでしょう。」といっていた。

「これは、どちらがよいという問題ではなく、目ざすところはどこか、という問題かもしれません」ともつけ加えていた。

エバンス氏自身も普及は頂点の強化に直結しないし、頂点が強いということはただちに普及にはつながらない、と認めていた。普及と強化は車の両輛であり、どちらも他を代行することはできないようである。

第4回3A大会の開催、第37回世界卓球選手大会(あるいはそれ以前)の開催など、日本の前途には多額の資金を要求される大会の開催が要望されている。また、日本リーグの創設、上級コーチ、公認コーチ、グループリーダーの公認コーチ制度の運営、ママさん卓球の拡大、レクリェーションルールの普及と運営、小学生大会や中学生大会の助成金の支出、高校生、ジュニアの国内各種大会の事業規模の拡大など、現在の予算、国際大会の拡充、規模を飛躍的に増やさなくては他の競技を伍して“ここに卓球あり”というわけにはいかなくなりそうだ。

また、将来日本も競技連盟の登録人口に比例して国庫予算を配分する時代が来るだろう。そうした場合に備える意味でも、また、“金も出すが口も出す・・・・・・”といった一部の人の意志によって運営されるのではなくて、大衆の力に立脚した民主的な卓球組織の運営をやるためにも登録制度の充実と、それを基盤とした予算の増大、事業の拡充など、財団法人一年目の後半を向える日本卓球協会の施策の充実が望まれる。

1976年10月

荻村伊智朗

1976.10.日本は卓球王国ではない?①

 

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