『発球とサービスのちがい』1978年9月 卓球ジャーナル「発行人から」より-荻村伊智朗

発球とサービスのちがい

卓球は歴史のあるスポーツだ。起源は100年以上も前にさかのぼる。

起源の古いスポーツの多くがそうだったように、卓球も宮廷や紳士貴婦人のサロンでたしなまれた優雅なゲームであった。

その名ごりがいまだにのこっているのが“サービス”という言葉だ。

相手をあざむくのは紳士淑女のすることではない。だから、ラリーをはじめるための打球は、むずかしいボールを出してはならない。ラリーが続かないので失礼だ。となると、レシーブをするほうがだんだん有利になる。だから、レシーブでも点を取りにゆくような球を出してはいけない。サービスやレシーブで点をとればノーカウントになる。ほんとうにこういうルールだった。

かくして、ラリーがはじまった。だから、最初の球は、ラリーをはじめるために“サービス(奉仕)”で出すのである。これが、サービスの語源だ。

その後、ルールが変った。スポーツとしての発展をとげればとげるほど、「ノーカウントだ」「いや、あのくらいは当然とれるのに、わざとレシーブをしなかった」「レシーブのしかたがきたない」「いや、そんなによいレシーブを返したら、すぐ3球目でやられてしまうじゃないか」といったトラブルが増えたのだ。そして、ルールが変り、サービスは得点をしてもよい打球の最初のボールとなった。

 

なのに、名前だけはのこった。この場合は、名は体を表さないのに。欧州や日本のように“サービス”という言葉をつかう地域ほど、古い“奉仕”の観念にとらわれている部分が多い。

 

新しく国をつくり、サービスを“奉仕球”などと訳さずに“発球”とした中国人の感覚は、新しく、鋭い。

ここで、サービスを第一球と呼びかえるかどうかは、読者個々のご判断におまかせするとしても、とらえかただけは中国に学び、これを追いこす工夫をしようではないか。

1978年9月

荻村伊智朗

 

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