ロング、カット、ショートという概念
9月は多忙な月だった。アラブ卓連(21ヶ国加盟)のコーチセミナーとアムパイアセミナーを11日間、アラビア半島の東端のバハレーンで木村興治さんといっしょにやり、帰国したと思ったら、また国際卓連の関係でインドネシアで行われた第10回東南アジア競技大会の開会式に臨席し、ついで東南アジアコーチセミナーを3日間、これはアジア卓連のコーチ委員長としておこなってきた。
バハレーンは、もう一年余りも隣りのU・A・E(アラブ首長国連邦)でコーチとして頑張っている高島君(筑波大出・国際交流基金から派遣)にも手伝ってもらい、たいへんたすかった。
ジャカルタでは、75年の大津での第1回ATTUコーチセミナー、昨年マレーシアでのコーチセミナーの参加者にも会い、“定着してきているな”と感じた。
レベルは2つのセミナーの参加者では少しちがった。やはり、率直にいって東南アジアのコーチの方が粒がそろっている。しかし、日本のコーチからみたらまだまだだ。やはり日本の人達は情報には恵まれているし、実践もつんでいる。
この2つのコーチセミナーでは、ロング、カット、ショートという日本独特の卓球の技のシステムの概念の説明を試みてみた。私の英語の表現力、通訳のアラビア人の卓球に対する理解度など、いろいろの制約もあったせいかアラブの人たちは、少し“ちんぷんかんぷん”、少し“はあ、卓球って、そういうふうに考えるものか”という受けとめかたをした。
東南アジアの人たちは大いにおもしろがり、少し疑問をもち、結局“目を開いた感じ”などといってよろこんでくれた。
私がいったのは、ロング、カット、ショート、というのは具体的な技を示す概念ではなく、あるシステムを表現する概念である、ということだ。もちろん、私自身も具体的な技を表現するときにも前記の言葉をつかっている。いわば混用している。だから、こんがらかるのだが、ほんとうは福士さんがやっておられるように、正確に、具体的な技にはそれなりの、自分なりの名称を与えるのがよい。
それにしても今の私には、日本人が、ロング、カット、ショートという言葉をつくりだしたのは、偉大な創造力だった、とおもえる。
日本卓球70年のあいだに多くの先人が血と汗を流して築き上げた伝統には、なにかがある。このごろ、特にそう思う。
ここをしっかりつっこめば、世界を相手の全種目完全制覇は、現実のものになるような気がする。
1979年11月
荻村伊智朗
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