『得意技』1979年5月 卓球ジャーナル「発行人から」より-荻村伊智朗

得意技

中越戦争の報道の中に、近代戦の大砲は一発打ったらレールの上を走って移動し、また打っては位置を変える“自走砲”スタイルが主流だというのがあった。さもないと、相手方のレーダーによって位置をすぐ見分けられ、反対に一発で大砲を打ちこわされてしまうのだという。これは卓球の得意技の活かしかたにも関連があるので私の興味をひいた。

“得意なコース”とか“得意な球”というのが卓球にはある。上手な選手の得意なボールは目にのこりやすい。写真などで紹介されても、つい打つときの手の動きやからだの動きに目がいってしまうのが人情だ。そして、その振りをいっしょうけんめいまねをする。

だんだん上手に腕が振れるようになり、からだを捻ったり曲げたりできるようになる。よいボールが打てるようになる。そのボールをためしてみたくなる。練習でやってみる。うまく振れると点がとれる。これはよい、というので、なるべくその打ちかたを数多く使うようにする。いつしか、それが自分の得意技になってゆく。

その得意技がフォアからもバックからも、ミドルからも出てくる人がいる。フォアからはスマッシュ、バックからはプッシュ、などというように。どちらかというと、いまはそうした傾向が強く、いろいろな技の組み合わせに意識の重点が移っていることが多い。しかし、一技、とくにフォアハンドのスマッシュやドライブに威力のある人たちには、この意識はなじまない。むしろ、この意識になじめば、弱くなるかもしれない。

ここへくればこう、あそこへくればこう、と打ちかたを変えるのはショート主戦のスタイルの選手や異質ラケットの変化カット型などの意識にはなじむ。

一発の技がきわだってすぐれている人ほどフットワークの重要性を意識しなければならない。出かけていって打ち、動いていって打ち、待っていて打ち、おびきよせて打たねばならない。“うさぎころがれ木の根っこ”ではだめなのである。

大砲のレールは、しかし単純な線上の移動で相手のレーダーの計算から逃げ出られる。卓球はそうはいかない。

前後左右にレールを敷く。上下にもレールがあって、立体的になる。その上に、あるときは打ち、あるときは打たない、といったチェンジ・オブ・ペースもある。

人間の心やからだのメカニズムを極限まで追い求める卓球は、ときには科学の粋を集めた近代兵器よりも先をゆく。

1979年5月

荻村伊智朗

1979.5.得意技

 

 

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