練習の質と量
東山高校がインターハイ30年連続出場の偉業を成し遂げた。名門京都のことだ。挑戦するものがいなかったわけでもあるまい。一度も気を抜いた年がなかったということだ。執念とでもいえるものが中心になる人にあるのだろう。
執念と言えば、「いま会ったとしたら、ギラギラした執念の固まりのような人だろうから、会いたいとは思わないだろう」と司馬遼太郎氏が宮本武蔵の故郷へ旅したあと記していたが、東山高校の執念の人は温厚な感じの今井良春さんだ。
今井さんとのつき合いは古いが、忘れられないのは私が全日本で初優勝したときの準決勝の主審であったことだ。
この忘れ難い想い出については後に触れる機会もあろうからゆずるとして、数々の名選手をひな鳥の姿で東山から送り出した功績はたいへんなものだ。
その記念行事がこのほど東山高校でおこなわれたが、私はお招きを受けたのに出席できなかったので、ついでもあってその数日前に東山を訪問し、お祝いを述べた。その折に、今井さんから数時間にわたってたいへんな熱情をこめて、今夏の高校生の中学合宿の土産話をしていただいた。
今井さんは、中国が若手を73年サラエボ大会の世界チャンピオン・郗恩庭に託していること、郗恩庭の膝元のジュニアたちはナショナルチームのメンバーに勝つ者もいる勢いであること、練習内容の企画・立案には、質と量の問題を具体的に、細部にわたって重視していること、などをうかがった。
アジア・ジュニア・チャンピオンの野尻選手に対する1400本のシートノック、ボール拾いの時間を節約するため複数のボールを次々と打つラリー練習、サービス練習は日常の食事と同じく特にテーマとして取り上げなくてもやるのが当たり前という感覚など、読者の練習場でもただちに採用できる話もあった。
シートノックはバンバン渡されてからいろいろなボールを打ちこむやり方で、郗恩庭自身も800本ほど打ったという。選手同士でもできる練習である。ボールを複数持つ練習はお互いに3個ずつ持てば、6つのラリーはボール拾いなしにできる。その後にボールを拾えば、6つのラリーで約1分間は時間を節約できるかもしれない。技の難度が高く、ミスの出やすい練習をする時など参考になろう。
もちろん、一球入魂の精神主義練習にも良い点はたくさんあるが、中国は“量は質に転化する”唯物弁証法のお国がらだ。
「見てきただけではだめ、きいてきただけではだめ。まず東山高校はやっています」と今井さん。話にききほれているうちに汽車を逃してしまい、乗り継ぎで次の目的県に向かった。
1980年11月
荻村伊智朗
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