中国の練習を上回るもの
第1回ワールド・カップの特集を東京12チャンネルTVが10月26日の日曜日、午後2時から1時間半にわたって放映してくれた。
私は主催者のITTF側の一員として香港に行っていて、試合をみていたこともあり、解説をやらせていただいた。読者の中にも、番組をみていただいた人もいることだろう。
この中で、小野選手が苦戦の末に逆転勝ちしたアメリカのNo.1、エリック・ボーガンとの試合があった。読者もご承知かと思うが、この選手はシェイクハンドでありながら”片面使い”のプレーをする。
ボーガンは小野には敗れたものの決勝トーナメントに進出し、8位という予想外の好成績をあげて注目された。
このワールド・カップは、世界ランキング上位からの10選手の他に、各大陸チャンピオンはたとえ弱い大陸からでも招かれる。
北米大陸はサシミのツマさ、という目付きでボーガンをみていたランキング選手たちの目付きも改まる活躍をみせた片面使いは奇手としかいいようがない、と考えられている。
私は、”アメリカ人のバイタリティと個人主義の一つのあらわれ”と解説したが、脳裏のすみに陸上の背面跳びがアメリカからでてきたこともひらめいていた。
女性にマラソンをやらせること、男子スケートの世界チャンピオンを女性コーチが育てたこと、などタブー視されていることに次々と挑戦し、道を拓いてきたことではアメリカ社会の活力は尊敬に価する。
日本の社会は技術革新と個性化の社会である。ある意味ではアメリカ型への道を歩みつつ、いろいろな分野でアメリカを凌駕しはじめている。
中国の最近のジュニアの練習法は本誌でも紹介したし、一般の優秀選手の練習内容もだいたいわかっているが、日本の選手がまねしてよいものもありまねすればかえってダメになるものもある。自分たちの卓球部や卓球組織を改良してゆく中に、中国に勝つヒントがある。
その鍵は、常識の打破、個性化にあろう。ボーガンのように、普通のコーチならば禁止するようなやりかたを貫き通してきたところにワールド・カップの8位があった。
1980年12月
荻村伊智朗
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