ITTFの新しい動き
最近の欧州の友人達からの便りによれば、ITTFに一つの新しい傾向というか、動きがでてきた、とのことです。
それは、従来は定例的な国際行事の主催団体としてのワクに自らを止めることをたてまえとしてきたITTFが、その姿勢を崩して卓球競技の育成促進者としての割を果たそうという姿勢をみせはじめた、ということです。
その一つの現われとして、ITTFが卓球の技術的未開発国に対して、コーチの斡旋や派遣のイニシャティブをとり、積極的な援助の手をさしのべよう、としていることがあげられています。私はこの動きに賛成します。私自身、数年来、ITTF会長のエバンス氏その他の人に対して、ITTFとしてのコーチ派遣を進言してきたからです。
現在の世界の各国の卓球界相互間の技術水準には非常なへだたりがあります。
世界選手権に60カ国参加したからといって、優勝を争う国といえば、団体戦で4~5カ国個人戦で7~8カ国の選手の名が候補としてあげられればよい方です。
そこに、世界選手権の団体方式が毎年のように論議の種になる原因もひそんでいます。サッカーや陸上競技とほぼ同じ数の加盟国数をかかえ、地球上の運動競技中最高の世界選手権大会参加国数を誇る卓球のアキレス腱ともいえるわけで、この水準のバラつきを少なくし、せめてサッカーや陸上のように20~30カ国は何らかの形で優勝戦線に関係があるようにすることが、卓球競技の総元締めであるITTFの任務であろう、と考えるわけです。
もちろん、出向するコーチの人達には、それなりの報酬が支払われるでしょうが、このITTFの措置はプロコーチを育てるためではなく、卓球競技を育成する熱意のある人を援助するため、ですから、出かける人もそれなりの高い意識をもって仕事に当たらねばならないと思います。
サッカーでは、IFに所属するクラマー氏のようなプロコーチがいるようですが、ITTFはそこまでは考えていないのではないかと思います。また、各国卓協も自国の選手のプロコーチ化を必ずしも歓迎するとはきまっていません。
私などが初めてコーチ活動をやったときなどとはくらべものにならない好条件が最近の海外コーチ活動にはでているようですが、まず国際協調と競技向上の使者である、という自覚をこれから海外に出かけていく多くの人達にもっていただきたいと希望します。
ITTFも、こうした動きに伴って、独自の発想で財源の研究を始めるかもしれません。これにも私は希望がありますが、それは、あくまで会員の会費を主な財政的基盤とした活動であってほしい、ということです。今後のITTFの民主的な運営のためにも、それが必要なことでしよう。
1971年10月
荻村伊智朗
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